ザッカーバーグ氏は「検閲戦争」でトランプ氏と共闘
メタは現状、欧州におけるデジタル市場法(DMA)違反の疑いで、5件の調査対象になっている。例えば、メタが運営するSNSのフェイスブックとインスタグラムで、有料の広告なしプランか、無料だが広告表示の目的で個人情報を提供するかという二者択一をユーザーに迫っていることだ。一昨年、同社はEUの一般データ保護規則違反で12億ユーロもの制裁金を科されてもいる。
ザッカーバーグ氏によれば、この20年でメタはEUから200億ドル以上もの罰金を科せられたという。本来なら、欧州でこれ以上違法とされないように、ユーザーの安全を第一に考えてサービスを改善すべきだろう。だが、ザッカーバーグ氏は今月7日、ユーザーの安全を守るため極めて重要な役割を担うとも言えるファクトチェックの仕組みを廃止すると表明した。

偽情報やヘイトからユーザーの安全を守ろうとするEUの政策からは真逆の方針だ。ザッカーバーグ氏は発表で「検閲」という言葉を何度も繰り返し、他国が米企業に対して仕掛ける「検閲戦争」でトランプ大統領と共闘すると宣言している。そして欧州を名指しし、同域内で「検閲」を制度化する法律が増加し続け、イノベーションの妨げになっていると批判した。
「検閲」とは公権力が強制的に出版物や放送などの表現内容を調べて改めさせることだ。これに対し、例えばオンライン上で憎悪を煽り、特定の人たちを生命の危機に陥れることを取り締まることが「検閲」にあたるかは疑問である。
昨夏の英国暴動において、過激派が「少女たちを殺害した犯人は難民だ」と誤ったデマをX上で量産して難民襲撃を呼びかけ、実際難民の宿泊施設が放火された件などは、取り締まりの対象になるべき事案だろう。
トランプ氏などを支援する極右的思想の支持者らは、こうした言説を取り締まることをすぐ検閲と言い立てて、自らのヘイト拡散を正当化する傾向にあると指摘されている。
ファクトチェック廃止を決定したザッカーバーグ氏に対し、欧州外交問題評議会のテクノロジー専門家はフランスメディアで、同氏の道徳観は「(骨抜きの)ゼリーに等しい」と揶揄している。