医師による安楽死は許されるようになるのか。写真はイメージ(写真:Skrypnykov Dmytro/Shutterstock.com)
(松沢 みゆき:在スウェーデンのジャーナリスト)
モルヒネも効かず「命を断ってほしい」「殺してくれ」と懇願
筆者の母はこの9月、肺がんで亡くなった。その2週間後に読んだこのニュースは、今もずっと、心に刺さったままだ。その概略は以下のようなものである。
ストックホルムの緩和ケア病棟にいた97歳のロルフは、周囲にいる医師や看護師、家族に、数日間にわたって「命を断ってほしい」「殺してくれ」と懇願し、時には叫び声を上げていた。痛みを和らげるために鎮静剤やモルヒネ、神経弛緩薬が投与されていたが、それほど効き目はなかったようだ。
ある秋の日の午後、一番可愛がられていた末の息子アンダースが、父の鼻と口をふさいで窒息死させた。彼はすぐに医師や看護師を呼んで 「私は父の言う通りにしました。彼の最期の願いを叶えました」と言い、殺人容疑で逮捕された。
裁判で彼は「父の様子を見るのは耐え難いことでした。私は、父が苦しまないようにする責任を感じました。私は父の苦しみを終わらせるために、彼の人生を終わらせたのです。もしそれが刑務所行きを意味するなら、そうします」と供述している。
起訴状には、アンダースが父への「同情」に基づいて行動したと記され、ロルフが高齢であること、その病状、「余命が非常に短い」と診断されていたこと、そして彼が「死の援助を強く明確に望んでいた」ことが示されている。
裁判所は状況を考慮し、いわゆる「慈悲深い殺害」(安楽死)とみなした。情状酌量の余地があるとの判断からだとみられる。
検死をした医師は、父親の死亡診断書に「窒息死」とは書かず、死因を「肺炎」とした。
おそらくこの医師は、実行した息子の刑罰が軽減されるよう配慮したのだと思われる。つまりこの医師は、「このケースでの安楽死幇助は許容範囲」と判断したのだろう。
この点を検察官に問われた医師は、次のように答えている。