葛飾北斎《露草に鶏》団扇絵判錦絵 天保3年(1832)頃 RISD美術館蔵 Courtesy of the Museum of Art, Rhode Island School of Design, Providence
Gift of Mrs. John D. Rockefeller, Jr.
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(ライター、構成作家:川岸 徹)

美しくも可憐な花鳥を、季節のうつろいとともに描き上げた浮世絵「花鳥版画」。アメリカの名門ロックフェラー家の一員、アビー・オルドリッチ・ロックフェラーが収集した花鳥版画コレクションを紹介する展覧会「開館30周年記念 ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン所蔵 ロックフェラー・コレクション花鳥版画展 北斎、広重を中心に」が千葉市美術館で開幕した。

海外コレクターを魅了した浮世絵

 1670(寛文10)年頃、菱川師宣によって確立され、その後鈴木春信らによる色鮮やかな多色摺の版画、すなわち「錦絵」と呼ばれる技法によって大きく発展した浮世絵。その自由で大胆な構図と豊かな色彩表現は西洋の人々を瞬く間に魅了した。

 浮世絵に影響を受けた西洋の画家は枚挙にいとまがない。マネ、モネ、ファン・ゴッホ、ドガ、ロートレック……。なかでもファン・ゴッホは歌川広重や溪斎英泉、三代歌川豊国(歌川国貞)らの浮世絵を収集し、壁に飾り、模写に励み、自分の絵の中に画中画として描き込んだ。ファン・ゴッホは弟テオ宛の手紙の中で「僕のアトリエは、なかなか悪くない。日本の版画を貼っていたのがよかったのだと思う」と記している。

 画家のみならず、海外のコレクターも浮世絵の収集に夢中になった。日本で馴染み深いところでは、建築家のフランク・ロイド・ライト、ボストン美術館日本部長のアーネスト・フェノロサ、フランスの作家エドモン・ド・ゴンクール。パリの宝石商アンリ・ヴェヴェールは集めた浮世絵約8000点を松方幸次郎に売却し、そのコレクションは現在東京国立博物館の所蔵品になっている。こうしたコレクターが収集に励んでくれたおかげで、美術ファンは質の高い浮世絵をまとめて鑑賞することができ、時には海外からの“里帰り展”を楽しむことが可能なのだ。

世界的にも稀有な花鳥画主体のコレクション

伊藤若冲《雌雄鶏図》木版彩色摺 江戸時代 RISD美術館蔵 Courtesy of the Museum of Art, Rhode Island School of Design, Providence
Gift of Mrs. John D. Rockefeller, Jr.

 千葉市美術館で開幕した「ロックフェラー・コレクション花鳥版画展 北斎、広重を中心に」では、米国ロードアイランド州にあるロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(通称:RISD)付属の美術館が所蔵する「ロックフェラー・コレクション」約700点から163点を厳選して紹介している。

 このコレクションは19世紀後半に石油開発で成功し、アメリカを代表する大財閥をつくりあげたロックフェラー家の一員、アビー・オルドリッチ・ロックフェラーによって収集・寄贈されたもの。アビーはネルソン・オルドリッチ上院議員の四女として生まれ、1901年にジョン・D・ロックフェラー・ジュニアと結婚。社交界の名士・芸術のパトロンとして名を馳せ、1929年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)の発案と設立に尽力した。

 アビーによるロックフェラー・コレクションは数としては圧倒的といえるものではないが、その個性によって世界的に知られている。その個性とは「花鳥画」が中心に据えられている点。浮世絵は「美人画」「役者絵」「風景画」が主要ジャンルとして挙げられることが多く、「花鳥画」主体のコレクションや展覧会にはなかなかお目にかかる機会がない。だが、アビーは可憐な花や鳥を主題とした「花鳥画」を好み、部屋を花鳥版画で飾り、作品に囲まれて暮らした。彼女は「花鳥画」を通して、日本そのものに恋をしたという。