失脚した張又侠・中央軍事委副主席(2024年4月資料写真、写真:ロイター/アフロ)
中国人民解放軍の最高幹部が相次いで失脚し、軍ナンバー2とされてきた張又侠・中央軍事委副主席までもが粛清された。
容疑は「米国に中国の核技術を流出させた疑い」と報じられ、極めて重大で、かつ唐突なものだ。軍装備・研究開発を統括してきた人物の突然の失脚は、中国軍の中枢に大きな衝撃を与えている。
この動きは、台湾情勢をめぐる国際社会の警戒を一段と高めている。
では、この粛清は「侵攻準備の一環」なのか、それとも「軍の弱体化」を招くにすぎないのか。
短期的には「弱体化」
指揮系統の空白と士気の低下
今回の粛清で特に注目されるのは、「米国に中国の核技術を流出させた疑い」という、あまりに重大で、かつ唐突な容疑が張又侠に向けられたと報道された点である。
中国の核兵器プログラムは最高度の機密であり、実際にその核心技術が米国に渡れば国家安全保障の根幹が揺らぐ。
しかし、この容疑は軍内部のブリーフィングで突然提示されたもので、外部から見れば「取って付けたような」印象すらある。
複数の専門家は、これを「粛清の正当性を最大化するための政治的レトリック」と指摘する。
中国の政治文化では、権力闘争の際に「国家安全保障上の大罪」を掲げることで粛清を不可逆的なものにし、反対派の反撃を封じる手法が繰り返されてきた。
核技術流出という極端な容疑は、張又侠氏の失脚を「個人の腐敗」ではなく「国家への裏切り」に格上げし、習近平国家主席による軍掌握を正当化する効果を持つ。
つまり、この容疑は軍内部の派閥を一掃するための「政治的な最終兵器」として使われた可能性が高い。
しかし、政治的には効果的でも、軍事的には深刻な副作用を伴う。今回の粛清は、軍の中枢を直撃した。
・張又侠(軍装備・研究開発の最高責任者)
・劉振立(連合参謀部参謀長)
この2人が同時に消えたことで、作戦計画・装備調達・戦略運用の3本柱が一時的に麻痺したのは間違いない。
軍の装備体系は複雑で、張又侠氏が統括してきた装備発展部は、ミサイル、海空戦力、電子戦、宇宙領域など、台湾侵攻に不可欠な分野を抱えている。ここが混乱すれば、侵攻能力は確実に低下する。
さらに、参謀長の失脚は、作戦計画の継続性を損ない、軍内部に「誰が次に粛清されるのか」という恐怖を生む。
歴史を振り返れば、ヨシフ・スターリンが1937年に軍のカリスマであったミハイル・トハチェフスキー元帥を粛清した際、ソ連軍は一時的に深刻な混乱に陥った。今回の中国軍も、短期的には同じ構造にある。
短期的に見れば、侵攻どころではないというのが冷静な評価だ。