ダボス会議に出席したNATOのルッテ事務総長(NATOのサイトより)

はじめに

目次

 2026年1月3日未明のベネズエラへの攻撃に続き、米国のドナルド・トランプ大統領は4日、雑誌の電話インタビューで、米国が介入対象とするのは、ベネズエラが最後の国ではない可能性を強調した。

 そのうえで、グリーンランドについて「中国やロシアの船に囲まれている」として懸念を示したうえで、「自国防衛の観点から絶対に必要だ」と述べ、改めて領有に意欲を示した。

 トランプ氏がグリーンランドの領有に再び意欲を示したことを受けて、1月5日、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は、トランプ氏が自治領グリーンランドを攻撃すれば、北大西洋条約機構(NATO)の終焉を意味すると述べた。

 1月15日、欧州7か国(英国、ドイツ、フランス、ノルウェー、スウェーデン、オランダ、フィンランド)が、トランプ氏が領有を目指すグリーンランドに小規模であるが部隊を派遣した。

 これに対してトランプ氏は1月17日、グリーンランドへの部隊派遣を決めた7か国およびデンマークの欧州8か国に対して最大25%の関税を課す意向を示した。

 NATO同盟国同士による武力衝突の可能性も排除できない危機的状況の中で、ダボス会議に出席したトランプ氏は、1月21日の演説の中で、グリーンランドの領有を巡り「軍事力を行使しない」と公言した。

 さらに演説後、NATOのマルク・ルッテ事務総長と会談し、報道されるところによれば、「北極圏地域全体に関して、将来の合意の枠組みを形成した」とされる。

 現時点では、情報が少なくどのような合意の枠組みか分からないが、「グリーンランドを含む北極圏の安全保障について米国を含むNATOで強化する方向」で合意したと筆者はみている。

 また、欧州連合(EU)は1月22日、米国への対応を協議する緊急首脳会議を開催した。

 会議後の記者会見で、アントニオ・コスタ欧州理事会常任議長(EU大統領)は「我々は米国と良好な関係を築く取り組みを続けていく」として、米国と対話を通じて解決策を探っていく方針を確認したと明言している。

 このため、グリーンランドの領有を巡る米国と欧州との対立は、解決したとは言えないが、ひとまず落ち着いたとみられる。

 いずれにしても急転直下の展開である。

 筆者は、この背景には、「加盟国間の紛争を封じ込める役割」というNATOの存在意義が有効に機能したとみている。

 さて本稿では、NATO担当の防衛駐在官としての筆者の経験を踏まえ、一般にあまり知られていない「加盟国間の紛争を封じ込める役割」というNATOの存在意義を中心に述べてみたい。

 初めに、トランプ氏が領有を目指すグリーンランドを巡る経緯について述べ、次にNATOの存在意義(加盟国間の紛争を封じ込める役割)について述べ、最後にNATOの将来についての私見を述べる。