加盟国間の紛争を封じ込めるNATOの役割

(1)NATOの歴史

 NATOは第2次世界大戦後、ソ連や東欧諸国の共産圏からの武力侵攻に対する抑止力として、米国主導のもと設立された。

 1949年4月4日にベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、アイスランド、イタリア、オランダ、ルクセンブルク、ノルウェー、ポルトガル、英国、米国の12か国が米国のワシントンで北大西洋条約を締結し、NATOが創設された。

 ベルリンの壁が実質的に崩壊しワルシャワ条約機構(WPO)の解体が遠からず予想された1989年末の欧州には、共通の敵がいる限り同盟は存続するという国際政治の一般原則を根拠に、NATOはまもなく解体するであろうと予想した専門家が少なからずいた。

 だが、ユーゴスラビア紛争(ユーゴ内戦)の激化(1992年のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争、99年のコソボ紛争)やロシアの政情不安定などの影響で、冷戦後もNATOの意義を再評価する動きが強まった。

 特に、ボスニア紛争では当初期待された国連保護軍の限界が露呈し、代わってNATOの軍事力が紛争解決に重要な役割を担うなど欧州の安定化と安全保障の役割を見出した。

 さらに、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、長年、軍事的中立や非同盟政策を維持してきた北欧のフィンランドとスウェーデンが、安全保障政策を大転換し、NATOに加盟した。

 そして、現在の加盟国は32か国へと増大、欧州の安全保障の要として重要な役割を果たしている。2026年4月4日に創設77周年を迎える。

(2)NATOの存在意義

 NATOは北大西洋条約に基づき、加盟国の集団防衛も含めて政治・軍事面で相互に自由と安全を保障することを目的としている。

 同条約の第5条では、「1または2以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する。したがって、締約国は、そのような武力攻撃が行われたときは、各締約国が個別的または集団的自衛権を行使して、その攻撃を受けた締約国を援助することに同意する」と規定している。

 さて、NATOの存在意義は2つある。

 一つ目は、加盟国の共有する価値を守るための軍事機構である。これはNATO創設以来の第1義の存在意義である。

 加盟国が共有する価値とは大西洋条約前文に「締約国は、民主主義の諸原則、個人の自由および法の支配の上に築かれたその国民の自由、共同の遺産および文明を擁護する決意を有する」と書かれている。

 欧州およびその近辺には、加盟国の共有する価値に対する多種多様なリスクが存在する。

 このため、これらのリスクを抑止し、万一、抑止が破れた場合にはこれを排除する軍事力(統合軍事機構)が不可欠であり、NATOは欧州における唯一の統合軍事組織を有する機構として、その役目を果たすことが求められた。

 2つ目は、加盟国間の紛争を封じ込める役割である。

 この役割はあまり知られていないが、今回の米国と欧州の対立の解消に大きな役割を果たしたと筆者はみている。次に加盟国間の紛争を封じ込めた事例について述べる。

 共にNATO加盟国でありながら歴史的にギリシャとトルコの間では対立が続いてきた。その紛争が武力衝突に発展するのを防いだのがNATOであった。

 1989年のNATO40周年首脳会議では、NATO内部での紛争が武力衝突に発展するのを防ぎ、影響を内部に「封じ込める」ための強力な枠組みと機能を持っていることを謳い上げた。

 当時、ギリシャとトルコは、キプロス問題(島はギリシャ系とトルコ系住民で分断)を巡って対立を続けていた。

 キプロスには約20%のトルコ系住民が存在し、ギリシャ系住民との間で1964年、1967年に武力衝突が発生した(キプロス紛争)。

 さらに1974年にギリシャの軍事政権がキプロスに介入したことに反発したトルコが出兵し、北キプロスを占領した。

 トルコの占領は続き、1983年には一方的に「北キプロス・トルコ共和国」独立を宣言した。

 こうしてキプロスは南北で分断されたが、武力衝突には発展しなかった。

 NATO本部には、紛争を封じ込める主な仕組みとして、北大西洋理事会(NAC: North Atlantic Council)と常設軍事委員会(MC: Military Committee)がある。

 NACは、加盟国の代表により構成されるNATOの最高意思決定機関で、同盟のあらゆる側面に関する問題を協議する。

 首脳会合や外相会合等があるが、重要なのは常駐代表(大使)による会合で、原則として毎週(週に1回)、NATO本部で開催され、あらゆる問題について最終的な決定を行うことができる。

 加盟各国は、NATOに常駐代表部を設置しており、常駐代表は文民の大使(外交官)である。

 他方、MCは、加盟国の参謀総長(Chief of staff)により構成されるNATOの軍事実務面における最高意思決定機関である。

 こちらで重要なのは、参謀総長の任命する常駐軍事代表(大将)による会合である。

 以上のように、NATO本部に常駐する各国の大使および軍事代表が、常時、安全保障上の問題について協議する場が提供されている。これにより、加盟国間の紛争を封じ込めることができるのである。

 昨年来、各会合に出席した米国の大使と軍事代表は、各国からの質問を受け、針のむしろであったと思う。

 米国の大使と軍事代表は、トランプ大統領の考えていることは分からないと答えたと憶測する。

 しかし、各国を代表する大使や軍事代表が、日常一緒に仕事していること自体が、同盟国同士の紛争の拡大防止に重要であると筆者は思っている。