「一つの中国」への対応は日中国交正常化から始まった(写真は1972年9月27日、北京を訪問した田中角栄元首相)

はじめに

目次

 2025年11月7日の衆院予算委員会での岡田克也氏(立憲民主党・常任顧問)の質問に対する高市早苗首相の答弁が中国の反発を巻き起こし、日中間の外交問題にまで発展した。

 岡田氏は、高市総理が1年前の自民党総裁選挙で、「中国による台湾の海上封鎖が発生した場合を問われて、存立危機事態になるかもしれないと発言した」ことを取り上げ、これはどういう場合に存立危機事態になると考えたのかと質問した。

 高市首相は、「台湾有事について、いろいろなケースが考えられる」と説明した上で、「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースだ」と答弁した。

 高市首相の答弁に対して、中国外務省の林剣報道官は11月10日の記者会見で、高市首相が台湾有事は「存立危機事態」に当たる可能性があると国会で答弁したことに対し、「中国の内政への乱暴な干渉で、『一つの中国』原則に深刻に背く」とし、日本側に「強い不満と断固とした反対」を表明し、厳正な申し入れと「強い抗議」を行ったことを明らかにした。

 林剣氏は「いかに台湾問題を解決し、国家統一を実現するかは全くの中国の内政だ」と主張。「外部勢力の干渉は許さない」と強調した(出典:産経新聞2025/11/10)。

 また、中国の傅聡国連大使は11月18日、国連総会の安保理改革に関する会合で高市首相の発言に触れ、「厚かましい挑発的発言だ」と批判した上で、「国際正義への侮辱であり、戦後の国際秩序の破壊につながる」などと強く反発した。

 さらに、「こうした国は安保理の常任理事国になる資格を全く有していない」と述べ、日本が目指す常任理事国入りに明確に反対した。(出典:FNNプライムオンライン)

 さて、日中関係の悪化が長期化の様相を呈している。中国外務省は11月14日、日本への渡航を避けるよう注意喚起し、16日には中国教育省が日本への留学を慎重に検討するよう通知し、文化旅行省が日本への旅行自粛するように通知した。

 中国政府は11月19日、2週間前に再開したばかりの日本産水産物の輸入を、事実上停止する措置をとった。

 また、11月22日から24日にかけて北京で予定されていた民間有識者会議「第21回東京-北京フォーラム」の開催が延期された。

 11月16日に中国側の実行委員会から、高市首相の「台湾問題に関して挑発的な発言と武力威嚇」があったことを理由に延期の通知があったという。

 宮本雄二・元駐中国大使は、中国側の日本に対する空気感は「大きくは変わっていない」とする一方で、「やっぱり台湾問題は別格」とも指摘。 中国側が内政問題だと主張していることもあり、「強く反応するテーマ」だとみている。

 ただ、中国側は「日中関係がどうなってもいいと考えているわけではない」ため、一定期間が経過した後に事態収拾に動くとの見方を示した(出典:J-CASTニュース11月17日)。

 以下、本稿では初めに、中国が高市発言に激怒する理由について述べ、次に中国・米国・日本の「一つの中国」原則に対するスタンスについて述べる。

 次に、集団的自衛権の行使を限定的に容認する閣議決定の概要について述べ、最後に中国の経済的威圧への対応に関する私見について述べる。