焼失前の首里城(資料写真、写真:HIROYUKI OZAWA/アフロ)
はじめに
中国メディアが相次いで沖縄県の日本への帰属を疑問視する論評を掲載している。
中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は2025年11月19日付で、「琉球諸島の主権の帰属は歴史的、法的な議論が常に存在している」とする社説を掲載した。
中国側は、高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁に強く反発しており、沖縄県を対日カードにして日本側を揺さぶる狙いがあるとみられる。
人民日報、新華社、中国新聞などと並ぶ中国を代表する報道機関の一つ、北京日報も11月18日、同社の系列が持つSNSアカウントで「琉球は昔から一度も日本の国土となったことはない」と主張。
高市首相の発言を念頭に「他国の内政に手を出す前に、日本はまず琉球問題に回答すべきだ」と一方的に訴えた。
中国のニュースサイト「中華網」は11月19日、沖縄県の帰属を「日本の歴史的な弱点」だとして「日本が台湾問題で火遊びを続けるならば、琉球問題が新たに交渉のテーブルに置かれる」とした(出典:産経新聞2025/11/20)。
12月1日、木原稔官房長官は記者会見で、中国メディアが沖縄県の日本帰属を疑問視する社説などを掲載していることを問われ、「中国の報道にコメントする必要はない。なぜならば、沖縄は我が国領土であることには何ら疑いもないからだ」と述べた。筆者もその通りであると思う。
さて最近、複数の中国メディアは、沖縄の日本帰属の正当性を疑う記事を掲載している。
なぜか。3つの見方がある。
●第1:意趣返し
2025年11月7日の衆院予算委員会における高市首相の台湾有事についての発言を「中国の内政への粗暴な干渉」と問題視し、沖縄県の帰属を問題として取り上げることで、意趣返ししようとする思惑がうかがわれる。
●第2:対日カード
主に中国政府やその影響下にあるメディアが、沖縄の日本への帰属に歴史的・国際法的な疑義を投げかけることで、日本政府に対する外交的な圧力や交渉材料(対日カード)とするのではないかとの臆測もある。
●第3:習主席の野心
中国が沖縄の「帰属問題」を持ち出して、歴史を書き換えるという見方である。習近平国家主席個人が沖縄の領有を主張したことはないが、その真意は不明である。
以下、本稿では最後の「習主席の野心」について述べてみたい。
ところで、沖縄の帰属問題についての中国の主張は今に始まった話ではない。
その発端は、2023年6月1日に習近平国家主席が「中国国家版本館」(古書を保管する国立施設)を視察した際に行った時の以下の発言とされる。
「私が福州で働いていたとき、琉球館と琉球墓園を知り、琉球と中国の往来の歴史がとても深いと知った」
習近平氏と沖縄の繋がりは後述する。
習近平氏の発言の翌年2024年春には、中国の学術会議が北京で開催され、テーマは「琉球の歴史的地位」だった。
参加者の多くは中国政府系の研究機関に所属する「御用」学者たちであったが、彼らが発表した論文の結論は「沖縄に対する日本の主権は歴史的に疑わしい」というものだった。
中国学術界の沖縄発言に加えて、中国要人の沖縄への訪問が活発化している。中国当局が沖縄県との政治・経済・文化交流を以前にもまして推進している。
また中国政府は10年以上にわたり、複数の中国の大学等の琉球研究センターに資金を提供してきた。
2024年10月17日付「東洋経済オンライン」が伝えたところによると、2024年だけでも、7月には沖縄県の友好都市である福建省のトップ、周祖翼・中国共産党福建省委員会書記が沖縄を初訪問した。
9月には同省の厦門市に本部を置く厦門航空が初の沖縄路線の定期運航を開始した。那覇と福建省の省都の福州を結ぶ直行便で、同路線の直行便は他社が運航していた2015年以来およそ9年ぶりである。
では、中国は沖縄を巡り、何を狙っているのであろうか。
国際基督教大学(ICU)教授のスティーブン・R・ナギ氏(国籍カナダ)は、「北京は歴史と学術を武器化して日本にノーコストで認知戦を仕掛けている。彼らは即時の領土変更を要求しているわけではない。歴史の書き換えという種を蒔き、いつか収穫する日を待っている」という。
ナギ氏が論じる中国の沖縄に関する認知戦とその対抗策については後述する。
以下、初めに習近平国家主席と沖縄との繋がりについて述べ、次に琉球の歴史と帰属問題についてのべ、最後に中国の沖縄に関する認知戦とその対抗策について述べる。