マスク氏をたき付けた24歳インフルエンサー
その1人が、ナオミ・ザイブトという24歳の極右インフルエンサーで、筋金入りのAfD支持者だ。気候変動の否定論者であり、環境活動家のグレタ・トゥンベリさんと同年代であることから、10代の頃には米国の保守系シンクタンクに「アンチ・グレタ」として担ぎ出されたこともある。このシンクタンクは、共和党のメガドナーで、トランプ大統領支持者のマーサー一族が資金提供していた団体だ。
ザイブト氏はさらに陰謀論集団「Qアノン」支持者で、その上白人至上主義の疑いがある男を信奉すると公言したことがある。AfDとのつながりは古く、母親はAfD所属の政治家らの代理人を勤めたこともある弁護士だ。

12月下旬、次期首相となる可能性の高いキリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首がAfDと連立を組むことを拒否した際、ザイブト氏はこれをXで批判。CDUが緑の党との連立を目指そうとしていることについて「環境社会主義者の自殺」と主張する動画を配信した。動画の中でザイブト氏は、マスク氏率いる政府効率化省(DOGE)を引き合いに出し、ドイツはDOGEから行きすぎた官僚主義による過剰支出を削減することはできないと批判されているとも話している。
マスク氏による「ドイツを救えるのはAfDしかない」というX上の突然のAfD支持表明は、このザイブト氏の投稿を引用したものだ。
2人の接点は半年ほど前にさかのぼる。ロイター通信によると、マスク氏が昨年6月の欧州議会選挙直後、ザイブト氏に「AfDはなぜ一部から否定的に見られているのか」とXで問いかけ、それをきっかけに2人は頻繁にやり取りをしている。
Xなど公の場でのやり取りは、ロイターの集計で40回以上に上る。また、ザイブト氏はロイターの取材に、両者がDMも交わし、その中でザイブト氏が「AfDはナチスのイデオロギーやヒトラーに類似せず、19世紀の自由主義国家主義運動のようなものだと説明した」としている。なお、ロイターは、このDMの内容を独自に確認していないと注釈もつけている。
この記事中、最も注目すべきは、ザイブト氏が「ドイツの罪悪感を根絶したい」と話していることだ。ユダヤ人虐殺を償ってきたドイツの文化に触れ「私は先祖が犯したとされるようなことは何もしていない」と訴えている。
つまり、マスク氏がAfDを「極めて常識的でドイツの未来を担うべき政党」と太鼓判を押し、「ドイツ人は誇りを持つべきだ」と自虐史観を捨てるよう呼びかけた根拠が、気候変動を否定し、白人至上主義疑惑のある20代の陰謀論者の言説であったという可能性は、大いにあるということだ。
そして、ドイツの現地報道によると、マスク氏のAfD支持を側面支援する仕掛け人がもう1人いる可能性も浮上している。ドイツの大手メディアグループのCEOである。