トランプ氏(左)にすり寄るマスク氏(右)(写真:共同通信社)

起業家で大富豪のイーロン・マスク氏が、欧州の極右勢力に急接近している。ドイツでは極右政党への支持を表明し、英国では巨額献金を検討、イタリアでは首相との親密な関係が物議を醸している。トランプ氏の大統領選出に貢献したマスク氏はすでに、米国の政治に大きな影響力を及ぼしている。莫大な資金力と自身が所有するSNSのXを武器に、米国のみならず世界の民主主義を揺るがす事態に発展しかねない。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 米国の次期大統領は富豪のトランプ氏——ではなく、まるで「超」富豪で南アフリカ生まれのイーロン・マスク氏であるかのようだ。だとしたら、米大統領は米国生まれでなければならないと規定する米国憲法をも超越する「歴史的偉業」かもしれない。

 マスク氏が所有するXには、同氏が大統領の執務室でデスクに座り、トランプ氏がバトラーさながらに背後に控える姿や、国王のごとく玉座に座りローブを羽織ったマスク氏にひれ伏すトランプ氏などの画像であふれかえっている。その様子は、トランプ氏が次期大統領になったというのはオールド・メディアが流すフェイク・ニュース、とでも言わんばかりだ。

 もちろん、これらの画像はフェイクであるし、トランプ氏は先の選挙で米国民に選出された正式な次期大統領だ。しかし、トランプ氏自身もあえて「マスクは大統領ではない!」と発言して念を押すほど、マスク氏の存在感が際立っている。

 トランプ氏はさらに、マスク氏は米国生まれでないため、次期大統領としての自分の地位は「安泰だ」とも付け加えている。冗談めかしてはいるものの、実は本当にマスク氏にとって代わられることへの危機感を抱いているのでは、とも勘ぐりたくなるほどだ。

 珍しくトランプ氏の自信のなさを露呈するかのような発言の背景には、先に起きた米議会での騒動がある。

 すでに多くの報道がなされているが、マスク氏がどれほど大きな影響力を及ぼしたのか、改めて振り返りたい。