下院の「つなぎ予算案」めぐり大暴れ
12月17日、下院が発表したつなぎ予算法案にマスク氏がX上で猛反発を始めた。18日にはXで「1日に100回以上投稿」(NBCニュース)したとされる。
マスク氏は法案について「最悪」「犯罪」「税金泥棒を止めろ」などとXに連投。中には法案が「生物兵器(実際は公衆衛生や感染症対策における生物医学研究)への資金提供」「議員の給与40%の増額(実際は3.8%)」といった偽・誤情報もある。27日現在、これらの投稿には偽・誤情報を正すためXに備えられているはずの「コミュニティノート」は付けられていない。
その上、マスク氏はつなぎ予算案を阻止するため、Xユーザーに対して地元議員に電話をかけるよう繰り返し呼びかけたほか、法案に賛成票を投じた議員は2年後の議会選挙で落選させるべきだという恫喝まで展開した。
マスク氏は先の大統領選において、トランプ氏支援に少なくとも2億6000万ドルもの巨費を投じたとされる。気に入らない議員に対し、カネに物を言わせた強引な落選運動を展開する可能性もゼロとは言えないだろう。議員らの元へは、マスク氏の思惑通り法案反対の電話が殺到したという。
結局、つなぎ予算案は19日、下院で否決に追い込まれた。21日には上下院で修正案が可決したが、選挙で国民から選ばれた議員でも、まして大統領でもない一人の富豪の意向に米議会が屈したかのような事態は、一大事だ。
トランプ次期大統領がまだ着任すらしていない段階で、マスク氏は早くもクリスマス前に手に入れた新しい「おもちゃ」、すなわち次期米政権下で約束された政府効率化省(DOGE)トップという政治的権力で遊ぶことに夢中のようだ。米国民が不幸なのは、このおもちゃ遊びによる弊害は、XやスペースXでのマスク氏の活動とは異なり、人々の実生活に影響しかねない危険なものになりかねないことだ。
米ポリティコが最近指摘しているが、マスク流改革とは時間をかけて物事を改善するのではなく、とりあえず既存のものを破壊することで、より良い結果になるか試みるというものだ。マスク氏はこれまでスペースXやテスラ、Xなどを経営する中で、大失敗を想定した上でイノベーションを進めてきたとされている。
スペースXでは当初、3度もロケットの打ち上げに失敗し、破産寸前にまで追い込まれた。ロイター通信は昨年の調査報道で、スペースXでは安全性軽視と無謀な目標設定により、600人以上もの従業員が死傷したと報じた。それでも実績を認められ、スペースXはNASAと契約を結んでいる。
しかし、こうした「破壊哲学」がビジネスだけでなく政治の世界にも及ぶと民主主義をも破壊しかねず、極めて危険だろう。破天荒な主張を続けるトランプ氏ですら民意で大統領に選ばれている。マスク氏は巨額の資金を投じて民主主義を買ったとも揶揄されているが、まさにその通りだ。
そして、マスク氏が破壊を試みているのは、米国の政治と民主主義にとどまらない。同氏の政治遊びは、欧州各地にまで広がろうとしている。最近のマスク氏は、あからさまに欧州の極右勢力に急接近している。
主要国への「すり寄り具合」はどのようなものか。