トランプ次期大統領がメディアへの攻撃を強めている。これまでも既存メディアを「フェイク・ニュース」と呼び敵視してきたが、最近になって「『フェイク・ニュース』(のジャーナリストが)が撃たれても気にしない」と発言が過激化。Xを所有し米公共放送を敵視するイーロン・マスク氏も次期政権に深く関与する。トランプ&マスクによって、米国の「報道の自由」は破壊されるのか。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
米国において、報道の自由は憲法修正第1条により保証されている。しかしその米国で今まさに、報道の自由が崩壊の危機に直面しているという。
老舗の報道機関である米CBSニュースが、トランプ次期大統領から100億ドルもの損害賠償を求める訴訟を起こされたのは、選挙戦さなかの10月31日。トランプ陣営が問題にしたのは同月初旬、CBSが行ったカマラ・ハリス副大統領とのインタビューだ。記者が聞いた質問の1つに対するハリス氏の2つの異なる答えを、2つの番組でそれぞれ使ったことが不当な「選挙介入」であると主張した。
質問は、イスラエルのネタニヤフ政権が米国から多額の軍事支援を受けているにもかかわらず、バイデン・ハリス政権の停戦要請などを無視し続けていることは、米国にネタニヤフ政権への影響力がないことの表れではないか、という趣旨であった。
確かに、一方の番組ではハリス氏の回答は若干言葉に詰まっており、心許ない印象を与える。しかしもう片方の番組ではより短く単純明快に答えている部分が使われており、印象は異なる。トランプ陣営は、CBSが民主党候補を勝たせる目的で、ハリス氏がより良く映るよう意図的な編集上の演出をしたとの主張を展開した。
CBSは訴訟を起こされた同日夜の声明で、トランプ氏による度重なる主張は虚偽であり、訴訟には根拠がないとして徹底抗戦の構えを見せた。トランプ氏は大統領に再選されれば、CBSの放送ライセンスを剥奪するなどという脅迫めいた発言も繰り返していた。
CBSへの訴訟に関するCNNの取材に対し、専門家らはこぞってその不合理性を指摘した。訴訟を「ばかばかしく、嘲笑すべき」という専門家の声も伝えている。トランプ氏の主張は、難癖まがいのものだということだ。しかし、トランプ氏が次期大統領に決まったことで、この事例は報道機関にとって笑いごとではすまない現実を突きつけている。
コロンビア・ジャーナリズム・レビューによれば、CBSを提訴したのと同時期に、トランプ氏の弁護士は米ニューヨーク・タイムズ紙と、同紙記者がトランプ氏に関する著作を出版したペンギン・ランダムハウスに対しても、100億ドルの損害賠償を求める書簡を送っている。また、大統領選中にトランプ陣営に対して不利益な報道を行ったとして、ニュースサイトのデイリー・ビーストにも、記事の撤回を求める法的書簡が送られている。
米国では大統領に再任するトランプ氏がその立場を存分に利用し、メディアへの締め付けをますます強化するのでは、という警戒感が高まっている。