トランプ氏が米大統領に就任することで、イスラエルはパレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区を併合するのではとの懸念が出ている。すでに過激なユダヤ人による強引な入植が進んでおり暴力が横行。国際社会は非難を強めているが、イスラエル当局は取り締まるどころか子供を含むパレスチナ人の殺害に軍が加担しているとの報道もある。イスラエルが苛烈な迫害を続ければ、パレスチナによる激しいインティファーダ(反イスラエル闘争)が勃発しかねない。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
トランプ次期米大統領は11月12日、来年発足する新政権の駐イスラエル大使に元アーカンソー州知事のマイク・ハッカビー氏を選出した。イスラエル軍によるパレスチナ自治区・ガザ地区への攻撃が続く中、ハッカビー氏の大使任命は注目を集めた。同氏はこれまでも、強固なイスラエル支持の立場を示してきたからだ。
トランプ氏は大統領選のさなかから、ガザでの戦闘を終わらせると豪語してきた。米フォーリン・ポリシー誌は大統領選直後の11月7日、トランプ氏によるガザでの戦闘終結は、イスラエルの意向に添うものになるだろうとしている。トランプ氏は前政権において、イスラエルの首都をテルアビブからエルサレムに移転し、イスラエル寄りの政策を実現させた「実績」もある。
イスラム教の聖地でもあるエルサレムへの首都移転には、パレスチナ人はもとより国際社会も猛反発した。この移転に尽力したのは、前トランプ政権のフリードマン駐イスラエル大使だったとされている。フリードマン氏は2016年の米大統領選の際、トランプ氏のイスラエル問題上級顧問を務めた。そして、米国政府が1967年来不法としてきたヨルダン川西岸のユダヤ人による入植を合法だと主張した。国際社会はおおむね、入植を違法と位置付けている*1。
*1:イスラエル入植地とは 「国際法違反」の批判にも止まらぬ拡大なぜ(朝日新聞)
今回、次期トランプ政権下でイスラエル大使に任命されたハッカビー氏は、2017年「(そもそも)ヨルダン川西岸など存在しない。入植などというものは存在しない。(入植地と呼ばれるものは)コミュニティであり、都市だ」「占領などというものは存在しない」と発言している。
ハッカビー氏は、同地域を「ヨルダン川西岸」と呼ばず、聖書に由来する「ユダヤ・サマリア地区」と呼んでいる。それほど熱心なキリスト教右派の福音派だ。イスラエル大使に任命された後の今月中旬にも、ヨルダン川西岸に関して先の主張を繰り返している。
イスラエルのネタニヤフ政権では、トランプ氏の大統領再選に極右閣僚が狂喜した。代表格が、スモトリッチ財務相やベングビール国家安全保障相らだ。11月11日、スモトリッチ氏はトランプ氏の勝利を受けて「2025年はユダヤ・サマリア地区での主権の年だ」と発言した。つまり、極右勢力の悲願であるヨルダン川西岸のイスラエル併合が、トランプ氏によって叶えられるという主張だ。