イスラエルが握る「経済の核ボタン」

 イスラエルメディアにこの発言について問われたハッカビー氏は、米国がイスラエルにそう指示するということはないなどと話し、スモトリッチ氏の主張を明確に支持することは避けた。しかし、「歴史上、トランプ氏以上に親イスラエル派の大統領は存在してこなかった」と、肯定的な発言をしている。

 スモトリッチ財相によるヨルダン川西岸併合への野望は、すでに進行中との見方もある。イスラエルのハアレツ紙は最近の分析で、スモトリッチ氏やネタニヤフ首相は「経済の核ボタン」を持っていると指摘している。ネタニヤフ政権はこの「核ボタン」により、ヨルダン川西岸の経済を徹底的に破壊し尽くすことを目論んでいるというのだ*2

*2On the Road to Annexation, Israel Is Intentionally Causing Economic Collapse in the West Bank(HAARETZ)

イスラエル軍の攻撃を受けるヨルダン川西岸地区(写真:ロイター/アフロ)

 ハアレツによると、パレスチナの銀行はオスロ合意に基づき、イスラエル国外での営業はイスラエルの銀行を通じてのみ可能であった。イスラエルの銀行は、テロ教唆の疑いをかけられ訴訟を起こされないようにイスラエルの財務省に保証を求め、受け入れられてきた。この保証は、これまで数十年にわたり自動的に更新されてきた。

 しかしスモトリッチ財相は、この保証を更新しないという「核のボタン」を押すことによって、パレスチナの銀行を孤立させ、自治政府の金融システムを破壊できる可能性に気付いたという。この措置が講じられると、イスラエルの銀行は(テロ教唆の疑いをかけられる恐れを避けるため)パレスチナの資金をヨルダン川西岸に送金することを拒否することになり、ヨルダン川西岸は経済的に外界から遮断されるとハアレツは伝えている。

 その上、パレスチナで使用されているイスラエル通貨のシュケルについて、人々が銀行に預金できない事態も発生しているという。イスラエルの中央銀行である「イスラエル銀行」が、パレスチナの銀行からのシュケルの預金を拒否したためだ。このためパレスチナの銀行は使えないシュケルであふれてしまい、預金を預かれない状況に追い込まれた。

 クレジットカード払いが主流のイスラエルと異なり、パレスチナは現金での取引が主体だ。あるガソリンスタンドは客からシュケルを受け取ることを拒否してストを実施し、交通網などに大混乱を生じさせたという。

 ネタニヤフ政権はヨルダン川西岸地域の経済を破壊している上に、同地域での過激なユダヤ人入植者によるパレスチナ市民への暴力行為を真剣に取り締まることもない。パレスチナ人の家は焼かれ、生活の糧であるオリーブ畑や農家なども襲撃されている。

 米公共ラジオ放送(NPR)は11月13日、イスラエルの人権団体がこの1年で少なくとも1000件の入植者によるパレスチナ人攻撃を確認したと報じた。こうした暴力行為についてはイスラエル国内治安機関シャバク(シンベト)トップさえ「ユダヤ人テロ」であるとして、これを容認しているネタニヤフ政権を公然と非難している*3

*3Violence by extremist Israeli settlers increases in the occupied West Bank(NPR)