ヨルダン川西岸地区で息子を殺され嘆くパレスチナ人=2023年12月7日撮影(写真:ロイター/アフロ)
  • 死者が2万人を超えたガザ地区の惨状に世界の視線が注がれる中、もう1つのパレスチナ自治区であるヨルダン川西岸の無法地帯化が深刻だ。
  • ハマスがイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けた10月7日以降、一部の過激なユダヤ系入植者らによるパレスチナ人への暴行や略奪、殺害が横行している。
  • 西岸への入植は「国際法違反」と非難されているがイスラエル政府は「違反ではない」と強弁。欧米諸国は暴力的な入植者に対して制裁を開始。何が起きているのか。(JBpress)

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)


 21世紀の今日、このような光景が想像できるだろうか。

 人々が農業を営み何世代にもわたり暮らしていた家にある日突然、武装した集団が押しかけてくる。憎悪に満ちた男たちから鼻先に銃を突きつけられ「この場から立ち退け!」と脅される。人々を守るはずの警察や軍隊も、この暴挙を静観するか、最悪の場合彼らも、何ら罪のない住民に暴力を振るう。1週間後、ようやく自宅へ戻ることを許可されると、家はもちろん、学校なども破壊され尽くしていた。家畜小屋は荒らされ、野菜を育てていた温室は焼かれ、衣服などの私財がことごとく略奪されていた——。

 残念ながら、これは「第3次世界大戦後」核戦争の果てに全ての法と秩序が失われ、力のあるものが恐怖と暴力によって他者を支配する世界を描いた80年代の少年漫画「北斗の拳」の架空の一コマではない。現在、イスラエルによって占領されているヨルダン川西岸で、パレスチナの人たちが日常的に直面する現実だ。

ヨルダン川西岸地区を走るイスラエル軍の車列= 2023年11月28日撮影(写真:ロイター/アフロ)

 土地を追われ、出ていけと脅されるのは、その場所で長きにわたり暮らしてきたパレスチナ系住民。そして、銃器などを手にパレスチナ人を威嚇し、暴力でねじ伏せているのは、一部の過激なユダヤ系の「入植者」たちだ。過激な入植者らの攻撃により、これまでに少なくとも1000人以上のパレスチナ系住民が、日々を営んできた家を追われている。その4割近くが子どもだ*1

*1Hostilities in the Gaza Strip and Israel | Flash Update #68(2023/12/13、国際連合人道問題調整事務所)

 10月7日に起きたイスラム組織ハマスによるイスラエルへの越境攻撃と、その後のイスラエルによる大規模な空爆などによって、2万人以上の犠牲者が出ているガザ地区の様子は、連日報道されている。ガザはイスラエルの占領下にあるパレスチナの自治区だが、もう1つの自治区がヨルダン川西岸だ。

(提供:アフロ)
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 ヨルダン川西岸を統治するのはガザを実効支配しているハマスではなくパレスチナ自治政府だが、イスラエルはハマス掃討の名目で、西岸でも攻撃を加えている。国際連合人道問題調整事務所(OCHA)によれば、10月7日以降、西岸で殺害されたパレスチナ人は、70人近い子どもたちを含む、およそ270人。そのうちの8〜10人が、兵士でも警官でもなく、一介の入植者によって殺害されたと記されている。