11月23日、アイルランド首都ダブリンで男が刃物で通行人を襲撃、暴動も発生(写真:ロイター/アフロ)
  • 欧州の極右が勢いづいている。「オランダのトランプ」と呼ばれる極右政党が同国の総選挙で大勝したが、それだけではない。
  • かつて移民に寛容だったアイルランドでも大規模な暴動が発生。ウクライナ難民の増加や住宅事情の悪化などへの不満が爆発した。
  • イスラエル・ハマス紛争に端を発したテロなどが起きれば、反移民の動きは一気に燃え上がる懸念がある。欧州域内の分断は、膠着が続くウクライナ情勢でロシアのプーチン大統領を利することにもなる。(JBpress)

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 11月23日、アイルランドの首都ダブリン中心部で暴動が発生した。同月24日のAP通信は、少なくとも100人ほどの暴徒が街へ繰り出し、警察車両やトラム(路面電車)などを襲撃したと報じた。SNS上には、覆面の男がパトカーに火を放ち、周囲が奇声を上げる様子や、別の車両にも数名が攻撃を加える様などが拡散している。商店なども襲撃され、略奪も横行したと伝えられた。

 暴動の発端は、同日の昼間に起きた小学校付近での刃物による襲撃事件だ。ナイフを持った中年の男が5〜6歳の幼児を次々に襲い、このうち5歳の女児と、子どもをかばおうとした女性教員が重症を負った。2人は一命を取り留めたものの、胸を刺された女児は先月末まで危険な状態が続いていた。

アイルランドの暴動=11月23日撮影(写真:ロイター/アフロ)

 通行人らの咄嗟(とっさ)の行動により、その場で逮捕された容疑者の身元が判明しないうちから、SNSではこの男が不法移民だとの不正確な情報が拡散した。ガーディアン紙によれば、アルジェリア人、モロッコ人、またはルーマニア人だとの噂(うわさ)が瞬く間に広がった。暴動は、襲撃事件から数時間後には、先に記したような惨状を招いた。アイルランド史上、この数十年で最悪の暴動だと伝えられている*1

*1‘Government is not listening’: anger over immigration spills into riot on Dublin’s streets(The Guardian)

 犯人はその後、アルジェリア出身者ではあるものの、既に20年前からアイルランドに暮らす49歳の男で、アイルランドの国籍保持者だと判明した。取り押さえられた際、頭を強く打ったことによる後遺症で、警察の取り調べも進んでいない。

アイルランドの暴動=11月23日撮影(写真:ロイター/アフロ)

 動機さえも不明な殺人事件がなぜ、一気に大規模な暴動に発展してしまったのか。カギは、SNS上に拡散した誤情報により暴徒らが犯人を「不法移民」であると断定したこと。あるいは、イスラム系過激派によるテロであると、勝手に結論づけたことにあるようだ。