
創刊145年を超す有力地方紙、京都新聞。だが、その経営体制は長年、オーナー家の専横という“闇”を抱え込んできた。これを払拭するため、持ち株会社「京都新聞ホールディングス」は2022年、大株主だった元相談役の白石浩子氏に報酬の返還を求めて京都地裁に提訴。今年1月23日、全額返還を命じる判決が出た(元相談役側は控訴)。40年にわたるオーナー家の呪縛を断ち切るため、経営陣や現場の記者たちはどう動いたか。そして、「女帝」が法廷で語ったこととは──。
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◎京都新聞に巣食ったオーナー家「女帝」と古都に暗躍するフィクサーたち
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◎京都新聞オーナー家「女帝」の地位保証と巨額報酬を確約していた決定的文書
(西岡 研介:ノンフィクションライター)
第三者委から返還訴訟…現場記者たちも参加
内部調査に基づき、2021年3月に白石浩子氏を相談役から解嘱した京都新聞HDはさらに3カ月後、この問題を調査するための、外部の弁護士で構成される「第三者委員会」を設置。記者会見を開き、それを公に発表した。同時に京都新聞も「京都新聞HD 不適切報酬か」との見出しで、浩子氏への相談役報酬問題を1面で報じた。
一方で、それまでオーナー家に支配されてきた京都新聞の組織改革と体質改善に先鞭をつけた山内康敬氏は、あとを大西祐資(ゆうじ)氏(現・京都新聞HD兼京都新聞社社長)に託し、浩子氏と“相討ち”する格好で、社長の座から退いたのだ。
第三者委員会は22年4月、約10カ月に及んだ調査の結果、〈旧京都新聞、京都新聞HDが浩子氏に対し約34年間継続してきた相談役報酬の支払いは(特定株主への利益供与を禁じた)会社法120条1項に反して違法と言わざるを得ない〉とする報告書を公表。京都新聞も報告書の要旨を、1ページを割いて報じた。
さらに京都新聞HDは同年6月29日、浩子氏が相談役に就任した1987年6月から解嘱されるまでの2021年3月までの約34年間で、同社や子会社から彼女に支払われた報酬や、私邸の管理費用など約19億円のうち、時効にかからない過去10年分、約5億1000万円の返還を求め浩子氏を提訴したのだ。
そして、京都新聞が浩子氏に対する訴訟に踏み切った同じ日、現場の記者たちも立ち上がった。
同紙のベテラン記者、日比野敏陽、曺澤晨(ちょう・てくしん)両氏が個人加盟する労働組合「関西新聞合同ユニオン」は、浩子氏と長男の京大氏の2人を会社法違反(利益供与)の疑いで京都地検に刑事告発したのだ。
告発内容は、京大氏が京都新聞HDの代表取締役だった間、浩子氏に対し、相談役としての業務実態がなかったにもかかわらず、年間3550万円の報酬を不正に支出した──というものだった。告発後の記者会見で、日比野、曺両記者はこう語った。
「HDは今年4月の記者会見で、浩子氏らの刑事責任を追及する考えはないと明言していました。が、果たして、公共性の高い新聞社として、それでいいのか。この問題に失望し、辞めていった仲間もいた。若い記者たちは取材現場で『京都新聞は何をやっているんだ』と責められている。ここは我々のようなオッサンが立ち上がるしかないか……と思いました」
告発は京都地検に受理されたものの、嫌疑不十分で不起訴処分となった。だが、その後、関西新聞合同ユニオンは、京都新聞HDの株主である組合員の協力を得て、京都新聞HDが浩子氏に対して起こした裁判に「共同訴訟参加」し、京都新聞HDと共に、裁判の中で、浩子氏側を追及したのだ。