
創刊145年を超す有力地方紙、京都新聞。だが、その経営体制は長年、オーナー家の専横という“闇”を抱え込んできた。これを払拭するため、持ち株会社「京都新聞ホールディングス」は2022年、大株主だった元相談役の女性に報酬の返還を求めて京都地裁に提訴。今年1月23日、全額返還を命じる判決が出た(元相談役側は控訴)。約40年にわたる新聞社への寄生はなぜ始まり、組織をどう蝕んできたのか。自身も地方紙の事件記者だったノンフィクションライターが、3回にわたり内幕をたどる。
(西岡 研介:ノンフィクションライター)
「経験も知見もない」相談役に10年で5億円超の報酬
「主文、被告は京都新聞ホールディングスに対し、3億1410万円を支払え……」
主文読み上げの後、京都地裁の松山昇平裁判長は「事案(の重要性)に鑑み、概要を説明します」として、この種の裁判では異例ともいえる判決要旨の読み上げを行なった。
だが、それに最も耳を傾けるべき被告、京都新聞社の「オーナー家」代表で、かつては「女帝」とも呼ばれた彼女の姿は法廷になかった──。
同社の持ち株会社「京都新聞ホールディングス(HD)」と子会社2社が、大株主だったオーナー家「白石家」一族の代表で、元相談役の白石浩子氏(84)に対し、過去10年間に支払った違法な報酬など約5億1000万円の返還を求めた訴訟で、京都地裁は1月23日、京都新聞HD側の訴えを全面的に認め、浩子氏に全額の支払いを命じる判決を言い渡した。
松山裁判長は判決で、浩子氏は〈京都新聞グループの経営に関する経験も知見も持っていなかったのであるから、京都新聞HD及びその子会社には、巨額の報酬を支払って被告(浩子氏)に対して相談役を委嘱する必要はなく、被告に対する巨額の報酬の支払は被告の求めによるものとしか考えられない〉と指摘した。【判決文より。( )内は筆者補足。以下同】
その上で、京都新聞HDの25%以上の株を持つ大株主である浩子氏が〈ほとんど(相談役としての)職務を行っていなかったにもかかわらず、高額な報酬を受領して〉いたことは、〈被告の(京都新聞HDに対する)株主権の不行使の見返りとしてされたものであり、(会社法が禁じる株主への)利益供与に当たる〉と断じたのだ。
それは、かつて「地方紙の雄」といわれた京都新聞社が、約40年の長きにわたるオーナー家の呪縛から、ようやく解き放たれた瞬間にも感じられた。
そして判決文には、40年にわたって同社に寄生し、組織を蝕んできたオーナー家一族の姿が克明に描かれていた。以下、裁判資料や関係者の証言をもとに、京都新聞の腐食の歴史と、再生への道のりをたどってみたい。