(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年2月11日付)

パナマ運河も本気で手に入れたいと考えているようだ(schliffによるPixabayからの画像)

 新自由主義と新保守主義については聞いたことがあるだろう。今度は新帝国主義の時代の到来だ。

 先月のドナルド・トランプの大統領就任演説で最も印象的な場面は、「米国は今再び、自国を成長する国、富を増やし、領土を拡大する国と見なす」と誓ったくだりだった。

 領土拡大に関するトランプの発言が中身のない派手なレトリックだったという期待は薄れた。

 無視したり一蹴したりするには、手に入れたい外国の領土への言及が頻繁すぎる。

 トランプは自信満々に、米国は「グリーンランドを手に入れる」と宣言した。パナマ運河を「取り返す」と誓った。

 そしてカナダは米国の51番目の州になるべきだと頻繁に言う。先週はパレスチナ自治区ガザに対する所有権まで主張した。

 トランプが領土獲得に示す興味には、支持派の一部さえ驚愕した。

 だが、世界的なトレンドの一部として見ると、トランプの拡張主義的な野望は理解しやすくなる。

 トランプが真に対等な相手と考えているように見える世界の指導者2人――ロシア大統領のウラジーミル・プーチンと中国国家主席の習近平――も、領土拡大は重要な国家目標にして自分自身の偉大さを裏付ける要素だと考えているからだ。

プーチンのウクライナ侵攻と習近平の台湾統一

 ロシア政府の報道官はよく、ウクライナ侵攻を正当化する理由として国家安全保障を引き合いに出す。

 だが、プーチン自身は執拗に、ウクライナはまともな国ではなく、ロシア世界の一部だという考えに立ち返る。

 ロシア外相のセルゲイ・ラブロフはかつてある腹心に対し、プーチンはウクライナ侵攻前に3人のアドバイザーの話を聞いたと語った。

「(雷帝と呼ばれた)イワン4世、ピョートル1世、そして女帝エカテリーナ2世」の3人だ。

 こうした支配者の下でロシアは領土を大きく拡大し、エカテリーナ2世は今のウクライナの奥深くへ攻め込んだ。

 プーチンは明らかに、昔の帝国の中心だったウクライナ、さらにはもう少し西の地域へのロシアの支配を再び確立したうえで歴史の舞台から去りたいと考えている。

 習近平も同様に、台湾を支配下に置くことが中国の国家的な運命と自身の歴史的なレガシーのカギを握ると考えている。

 最近の演説では「台湾は中国の神聖な領土だ」と宣言した。

 習は、台湾問題はもはや代々先送りすることはできないと言った。中国の「再統一」を完了させれば彼個人の偉業となり、中華人民共和国の建国の父である毛沢東のそれと似た地位を主張できるようになる。