
『人はどう死ぬのか』『人間の死に方』など、常に「死」という重たいテーマを掲げ、小説や新書を生み出してきた、医師で作家の久坂部羊さん。2月7日には新刊『死が怖い人へ』(SB新書)を刊行、また新たな角度から「死」を見つめる一冊となった。
久坂部さんはなぜ、「死」の本ばかり書くのか。その背景には、医師として看取ってきた多くの患者の姿があった。誰もが後悔しない死を迎えるために、久坂部さんが伝えたいこととは。(吉川愛歩:フリーライター)
チャンスは一度だけ、「死に方」で失敗しないためには
──久坂部さんは、なぜ一貫して「死」をテーマに多くの作品を書いてきたのでしょうか。
久坂部羊氏(以下、久坂部):これまで医師として、たくさんの死を目の当たりにしてきたことが背景にあります。若いころは外科医として、がんなどで亡くなる患者さんを見てきたんですけど、問題がある死というのか……、いわゆる〈よくない死に方〉もたくさん見てきたんですね。
その後、在宅医療医を13年ほどしたんですが、在宅医療で亡くなる方は、非常に好ましい死に方をされるんです。残されたご家族も亡くなっていく本人も、病院で死ぬより明らかに好ましい状態である、ということを実感しました。
でも、それって世間にはあまり伝わっていないことですよね。それで、わたしの経験を少しみなさんにお伝えしたいな、と思ったのがはじまりです。
──「よくない死に方」と「いい死に方」の違いはなんでしょうか。
久坂部:ポイントは、死を受け入れる気持ちを持てるか、ということです。
医者をやっていると、どんなに努力しても亡くなる人は亡くなる、死に対して医療は無力だということを身に沁みて感じるのですが、一般的にはやはりなかなか「もう死んでもいいです」っていう状態にはならないですよね。だけど、それが大きな過ちで、失敗してしまう原因の本質といえます。
自分も家族も、誰だって必ずいつかは死ぬから、まずは死を受け入れる。死を絶対に止めたいと思うことは、間違った道へのスタートラインに立つのと同じです。誰もかれも必ず死ぬという気持ちが持てれば、このあたりが最後なのかな、というのも自然と見えてきて、残った時間を有意義に過ごすことができます。
──今回の本にもありましたが、小説『悪医』でも、死ぬまでの残り時間をテーマパークの閉園時間に例えて患者に伝える医師の言葉がありましたね。閉園時間は決まっていて、それが変わらないと分かっているなかで、時間を延ばしてほしいと泣きながら訴える子と、終わりは変わらないのだからそれまで楽しく遊ぼうと気持ちを切り替えて時間をまっとうする子、どちらの道を選ぶべきかという。