病院の風景「日本では過剰医療がはびこっている」と藤井聡氏は指摘する(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 昨年10月の厚労省の発表によれば、2021年度の日本の国民の医療費の総額は45兆359億円で、これは前年度から2兆694億円(およそ4.8%)の増加だ。国民1人あたりの医療費は35万8800円と、前年度から1万8200円(およそ5.3%)の増加となった。国内総生産(GDP)に占める医療費の比率は8.18%である。

【参考資料】
令和3(2021)年度 国民医療費の概況(厚生労働省)

 膨張する日本の医療には、見直すべき無駄な部分はないのだろうか。『「過剰医療」の構造』(ビジネス社)を上梓した京都大学大学院工学科教授、藤井聡氏に話を聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──本書は、日本の過剰医療の実態について書かれています。藤井先生がここで書かれている「過剰医療」とはどのようなものなのでしょうか。

藤井聡氏(以下、藤井):医療というものはもちろん大切ですが、必要を超えて提供されると、むしろ人体には有害なものになります。たとえば、薬を過剰に摂取したら毒になるし、必要がないのに入院をさせれば、足腰が弱くなって健康を害してしまう。

 同様に、医療が過剰供給になると、健康の面でも財政の面でも有害です。この本の中では、その様々な事例を紹介しています。

──医師の森田洋之先生と大脇幸志郎先生との座談会では「慢性期医療を強化するほど過剰医療が拡大する恐れがある」というお話がありました。

藤井:森田先生、大脇先生はもちろんですが、お二人だけでなく、この本の中では、他の医師の方々も同じ主張を展開しています。

 医療には「慢性期医療」と「急性期医療」があります。「急性期医療」とは、事故や病気があって、すぐに病院で診断や治療が必要な状況に対応する医療です。こちらはとても重要で、この分野に関しては、むしろ医師の数が足りていないくらいです。

 一方の「慢性期医療」とは、成人病やほとんど介護に相当する医療行為、痴ほう対策、精神疾患による隔離など、緊急・救急ではない、慢性の問題に対して行われる医療行為です。

 このようなタイプの患者は、病気を持っていると判断すべきか曖昧なケースも少なくありません。だからこそ、この部分の対応を過剰供給しようとする金儲け主義の医師や病院が、患者を必要以上に入院させるという不正が発生するのです。

──入院の必要がない人を入院させることなど、本当にあるのでしょうか。

藤井:こういった事実が存在するということは、この本の中で紹介した医師たちの証言やアンケート調査によっても明らかになっています。

 医師たちに治療の目的をアンケートで尋ねたところ、「患者の幸福こそ最大の目的」という回答はもちろんありますが、それ以外に「病院の利益の最大化を意識している」という回答が全体の6割で見られました。「病院を満床にするまで入院患者を確保する」と答えた医師も同じく6割以上もいました。

 別のアンケート項目では、よりダイレクトに「本当は必要ないけれど、病院の経営のために行う医療行為はありますか?」と質問すると、実に4割以上もの医師が「ある」と回答しました。

 こういったことは基本的に慢性期医療の中で発生していることです。悪事に手を染めている医師がたくさんいるということを、ぜひ皆さんに知っていただきたい。