人質の解放を条件に、6週間程度の戦闘休止に合意する姿勢も見せたイスラエルだが、ネタニヤフ首相はガザ地区南部ラファへの攻撃を止めるつもりはないと語る。攻撃が始まれば、子どもや女性をはじめ多数の犠牲者が出ることが懸念される。エジプト、カタール、アメリカなど、仲介を担う国々は戦闘を止めることができるのか。
2021年8月の米軍のアフガニスタン撤退も記憶に新しいが、中東政策で失敗を繰り返してきたアメリカに追随してきた日本政府は、現在何を考え、何をすべきなのか。『アメリカのイスラーム観 変わるイスラエル支持路線』(平凡社新書)を上梓した現代イスラム研究センター理事長の宮田律氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──本書の前半では、なぜアメリカがアフガニスタンで失敗したのかについて書かれています。アフガニスタン戦争は、9.11同時多発テロに報復する形で始まり、以後20年続きました。アメリカはなぜ失敗したのでしょうか。
宮田律氏(以下、宮田):アメリカがアフガニスタン戦争で失敗した理由はいくつもあると思いますが、第一に、武力では人の心を変えることができなかったということです。軍事介入したことでアフガニスタン民衆の反発を招き、タリバンを中心とする米軍への攻撃が始まりました。
本来、アメリカはアフガニスタンの再建や復興を考えなければならなかったのですが、想像以上に民衆の反発や抵抗が強く、復興支援を行うことができなかったのです。
パキスタンやアフガニスタンで医療活動を行い、アフガニスタンで凶弾に倒れた中村哲医師は「自衛隊の派遣は有害無益」「百害あって一利なし」と語っていましたが、私にはこの考えはよく分かります。
アメリカは軍を送り込めば現地の人々から相当な反発があることはわかっているはずですが、同じ失敗をイラクでおかし、アフガニスタンでも繰り返しました。1950年代のレバノン暴動でも軍事介入していますが、反省することなく、同じように介入を繰り返しています。
日本のメディアも含めて、アメリカの論理で私たちはものを考えがちですが、欧米の価値観の強制を嫌がる人たちが途上国では大勢いることを、アメリカは認識していないと思います。「民主主義こそ絶対だ」という思い込みが、現地の人々の反発を招いてきたのです。
たとえば、アメリカは「女性を抑圧している」「女性に十分な教育の機会を与えていない」とタリバンを批判しますが、アメリカの占領下でも、アフガニスタンの女子教育は一向に進みませんでした。
──アメリカが撤退した後のアフガニスタンはどうなりましたか。
宮田:経済的に苦しい状況が続いています。2021年8月に、バイデン政権はアフガニスタンを掌握したタリバンへの資金の流入を防ぐために、アフガニスタンがアメリカに保有する資産を凍結しました。
その結果、日本を含め、諸外国もアフガニスタンの中央銀行と取引することが難しくなりました。中央銀行が保有するドルも、アフガニー(現地通貨)も少なくなり、インフレが起こり、人々は経済的困難に直面しています。
また、アフガニスタンには深刻な干ばつが起きています。その状況は年々悪化し、農業生産は著しく低下しています。経済制裁を受け、諸外国とも外交関係を持てない現在のタリバン政権には、国民を貧困から救う有効な手立てがありません。
──「多くのアルカイダ指導者たちが拘束された2003年春ぐらいの時点で、米軍は撤退すべきだった」と書かれています。