ジャニー喜多川氏の性加害問題は一人の音楽プロデューサーの人生も変えてしまった(写真:共同通信社) ジャニー喜多川氏の性加害問題は一人の音楽プロデューサーの人生も変えてしまった(写真:共同通信社)

 2023年7月1日、あるポスト(ツイート)が話題を集めた。

「15年間在籍したスマイルカンパニーとのマネージメント契約が中途で終了になりました。私がメディアでジャニーズ事務所と藤島ジュリー景子社長に言及したのが理由です。私をスマイルに誘ってくださった山下達郎さんも会社方針に賛成とのこと、残念です。今までのサポートに感謝します。バイバイ!」

 ポストしたのは、大物ミュージシャンやグループを手掛けてきた音楽プロデューサーの松尾潔氏。この3カ月後、2度目の会見を開いた旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP社)は、ジャニー喜多川氏の性加害の事実を認め、謝罪し、社名を変え、被害者への補償を約束し、トップの交代を決めた。

 大手メディアも及び腰の段階だったにもかかわらず、音楽・エンタメ業界のど真ん中から、日本最大の芸能事務所に対して声を上げたその人は今何を思うのか。『おれの歌を止めるな ジャニーズ問題とエンターテインメントの未来』(講談社)を上梓した松尾潔氏に聞いた。(聞き手:長野光=ビデオジャーナリスト)

※このインタビューにおける松尾氏の発言について、事実がどうかスマイルカンパニーに質問しましたが、回答はありませんでした。

──ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長が、昨年5月に謝罪動画を出した翌日、松尾さんはラジオ番組で「ジャニーズの問題を放置してはならない」という主旨の発言をし、この直後に所属していた音楽プロダクションから契約を解除されました。プロダクションの社長と、お互いに涙を流しながら契約解除について話したことなどを本書で赤裸々に書かれています。

松尾潔氏(以下、松尾):昨年5月にジュリー社長が謝罪の動画を出した時には「大変な決心をして表に出てこられたな」という印象を持ちました。というのも、ジュリーさんは、それ以前はまず公に姿を見せない方でしたから。

 でも、謝罪動画で話していることを聞いてみると、内容は不十分だと感じました。これでは本質的な改善につながる対応ではないと思い、翌日、僕が出演した福岡のラジオ番組「田畑竜介Grooooow Up」(RKBラジオ)でそのことについて話しました。

 本書にも、僕がその時に話した内容の書き起こしが掲載されています。読んでいただければ分かると思いますが、突飛なことは何一つ語っていません。

 これまでずっと自分が意見を言う時には、努めて冷静に話したり書いたりすることを心掛けてきました。当たり前の指摘をしているだけなので、批判、告発、あるいは暴露といった先入観ありきで持った方が読むと、むしろ拍子抜けされるくらいです。

 でも、ジャニーズの性加害問題では、そもそも自分の意見を語る業界関係者が少なく、「松尾の言うことなんて業界人なら知っているけれど、言わないだけ」という冷笑的なムードがはびこっています。「それを言ったらお終いよ」と臭いものに蓋をしてきた歴史があるんですね。

 ところが、知ったら言わずにおれない僕が言ってしまった。そういうことなのかもしれません。

──プロデューサーとして名だたるアーティストを世に送り出してきた松尾さんの発言ですから、大きく話題になりました。

松尾:後日、ラジオ番組で話した内容の書き起こしが番組のサイトに掲載されて、後に「Yahoo!ニュース」に転載されました。これは、僕のその時の発言が注目を集めたからではありません。番組でしゃべった内容は、いつも掲載されています。

 その数日後、スマイルカンパニーの小杉周水社長から「松尾さん、ちょっと話したいことがある」と事務所に呼ばれました。ただ、この時点では、僕はまさかこのラジオ番組で話したことが理由で呼ばれたとは思っていませんでした。

松尾氏はジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長(当時)に謝罪動画を批判した。写真は11月の謝罪会見(写真:共同通信社)