国境を警備する新疆生産建設兵団国境を警備する新疆生産建設兵団(写真:新華社/アフロ)

 2月1日、新疆ウイグル自治区の政府は、新疆ウイグル自治区内のモスクを中国式のデザインにしていくことを義務付けると発表した。今後、モスクを新設する場合や、改装や拡張の工事を行う場合は、建築の方法や建物の装飾を中国式にしなければならない。このほかにも、学校やモスク以外での宗教教育を禁止するなど、中国政府は新疆ウイグル自治区内の管理体制を一層強めている。

 新疆ウイグル自治区を中国化するために、中国政府は今何をしているのか。『ウイグルを支配する新疆生産建設兵団 東トルキスタン秘史』(ハート出版)を上梓したウルムチ出身のウイグル人、千葉大学非常勤講師のムカイダイス氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──本書では「新疆生産建設兵団」について書かれています。新疆生産建設兵団とは何でしょうか?

ムカイダイス氏(以下、ムカイダイス):新疆生産建設兵団は、新疆ウイグル自治区の中にある14の人民解放軍の師団の総称です。つまり、これは軍ですが、同時にそれ自体が様々なものを生産して販売する企業でもあります。

 さらに、新疆生産建設兵団は行政機関でもあります。新疆ウイグル自治区の中の地域と水源を占領して、そこに街を造り、新疆ウイグル自治区と同じように、行政の権限を持たせています。軍が企業として、行政として、共産党の機関として機能する「軍・政・党・企」一体の特殊な機関です。

 新疆生産建設兵団は、新疆ウイグル自治区にありながら、新疆ウイグル自治区ではなく、新疆ウイグル自治区にとっては治外法権の場所という、世界でも類を見ない奇妙なところです。新疆生産建設兵団内の人口はおよそ400万人ですが、毎年20万人以上の勢いで人口が増え続けています。

 新疆ウイグル自治区内に、中国政府は最初、自治区に属さない行政区間を置くことを憲法で説明することができませんでした。そこで、1990年代に新疆ウイグル自治区のトップに新疆生産建設兵団の司令官を据えて兼任させたのです。

「逃げるものは射殺しろ」という新疆ウイグル自治区トップの陳全国・中国共産党委員会書記の文章が流失し、毎日新聞を含む世界中の報道機関がこれを報じました。新疆ウイグル自治区は「自治区」なのに「なぜトップが中国共産党の軍の司令官なのか」、世界中がもっと中国に問わなければなりません。

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新疆公安ファイル(毎日新聞)

 海外の学者はたくさん声をあげてくれていますが、日本のウイグルを研究してきた学者は積極的に声を上げているとは感じられません。これは、私にはとても悲しいことです。日本の学術界は、こんなに及び腰になる必要はありません。

 私の本来の専門は民俗学で、新疆ウイグル自治区やウイグル人の文化の研究者ではありません。でも、学術論文を含め、新疆ウイグル自治区の実情について書かれるものが少ないので、こうして本を書いています。

 私たちがどのようにして統治され、消されていくのか、記録しなければなりません。歴史に記録して、分析していくためには、今はとても重要な時期です。

──2015年4月、在日中国大使館のウェブサイトに、新疆ウイグル自治区に「ココダラ市」という新しい市がつくられると発表がありました。その中には、「兵団は今後も経済成長に合わせて市を増やしていく計画」と書かれています。なぜ中国政府は新疆ウイグル自治区内に次々と新しい市をつくっているのでしょうか。