テレビ局のドラマ制作に波紋を投げかけた「セクシー田中さん」のドラマ化問題(写真:共同通信社)

 1月29日、漫画家の芦原妃名子さんが死去した。芦原さんは、亡くなる直前まで、自身の漫画のドラマ化において、話の筋やディテールなどが納得のいかない形に変えられていたことに悩み、辛い思いをX(旧ツイッター)にポストしていた。

 芦原さんに続く形で、作品がドラマ化されたときに、不本意な変更があったことに憤りを覚えたと告白する他の人気作家も現れ始めた。漫画や小説のドラマ化は何が問題なのか。テレビプロデューサーの鎮目博道氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──なぜテレビドラマの制作は、漫画や小説などをドラマ化する際に、話の筋を変えるのでしょうか。

鎮目博道氏(以下、鎮目):テレビドラマというものは、多くの場合、1回40-50分ほどで番組が構成されており、放送回数は10-11話ほどです。40分×10回と考えると、400分ぐらいで話をまとめなければなりません。ところが、漫画や小説は往々にしてそこには収まらない長さがあります。

 また、登場人物が多いと理解しにくくなるので、登場人物の数を減らしたり、エピソードを単純化したりする必要も出てきます。登場人物の心の動きなども描き切れないので、そういった部分をカットすることもあります。

 このように、いろいろなものを短くしたり、減らしたりしなければ、ドラマの時間内に収まりません。結果、さまざまな変更が発生します。ですから、漫画や小説をテレビドラマにするときに内容が変わるのは、ある程度やむをえない部分もあります。

 もう一つ、むしろこちらのほうが問題かもしれませんが、原作の読者とドラマの視聴者ではターゲットとなる層が異なります。

 漫画や小説の場合、出版物が100万部売れれば大ヒットですが、テレビ番組は100万人に見られても、視聴率は1%にもなりません。漫画や小説は一部の人が楽しめばそれでいいという側面がありますが、テレビは必ずしもそうではないんです。

──確かに、ターゲット層のボリュームはだいぶ違いますね。

鎮目:あるタイプの女性の層にターゲットを絞ったとしても、100万部売れる可能性はあります。これに対して、テレビで視聴率10%を狙う場合は、若い人からお年寄りまでみんなが見てくれるドラマを作らなければなりません。そのため、多くの人に分かりやすい内容にしなければなりません。

 そういう事情があるため、漫画や小説をドラマ化する場合には、作品にいろんな要素を付け加えたり、分かりやすく変形したりして、結果的に原作が狙った世界観からかけ離れてしまうのです。とがってカッコいいものが、どこか平凡なものになってしまう。そのようなことがよく起こります。

──漫画「セクシー田中さん」のドラマ化の場合でいうと、芦原さんにとってはあまりにも不本意な改変があったようです。ドラマ化に向けて、事前にどのような話し合いをして契約が交わされるのでしょうか。