ここ最近、増えている昆虫食レストラン。写真はANTCICADA(アントシカダ)。時計回りにコオロギビール、コオロギラーメン、ハムシのデザート、ナマズの蒸し物ここ最近、増えている昆虫食レストラン。写真はANTCICADA(アントシカダ)。時計回りにコオロギビール、コオロギラーメン、ハムシのデザート、ナマズの蒸し物(写真:共同通信社)

 食用コオロギの養殖・加工を手掛けるクリケットファームが2024年1月に破産した。

 国際連合食料産業機関(FAO)は2013年に、今後、世界の人口が増加していくにあたり、人類は深刻な食糧難に直面すると発表した。FAOは報告書の中で、食糧難、特にタンパク質不足の解決策の一つとして昆虫食を推奨。これを機に、昆虫食ビジネス業界には、ベンチャー企業が次々と参入した。

 クリケットファームも、その波に乗って2021年にコオロギ養殖ビジネスを開始したが、参入からわずか3年で破綻した。クリケットファームの破綻を受け「昆虫食ビジネスは時期尚早」「そもそも昆虫を食べること自体に無理があった」との意見もある。果たして、本当にそうなのか。消費者の心理的な抵抗感を減らした昆虫食品の研究開発を行うFUTURNAUT株式会社 代表取締役CEOの櫻井蓮氏に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──クリケットファームの破綻について、「SDGsというきれいごとだけではビジネスできない部分と、ベンチャー投資ブームが終わったという2つが重なった事例」と分析する経済ジャーナリストもいます。櫻井さんは、クリケットファームの破綻の要因はどのようなところにあると思いますか。

櫻井蓮氏(以下、櫻井):まず、私はクリケットファームのようなチャレンジングな会社があったということは非常に良いことだと思っています。昆虫養殖という事業で、投資を集められる見せ方ができたということは評価すべき点です。

 クリケットファームに対しては、設備投資先行型で、生産側にフォーカスを当てたビジネスモデルを描いている会社という印象を持っていました。生産能力を備えてはいたものの、生産したものをどのように売るか、誰に買ってもらうか、という出口が見い出せず、設備投資分を回収できなかった、ないしは資金がショートしてしまったのかもしれません。

倒産したクリケットファーム。食用コオロギの養殖・加工を手掛けるベンチャーとして注目を集めていた。倒産したクリケットファーム。食用コオロギの養殖・加工を手掛けるベンチャーとして注目を集めていた(写真:共同通信社)

──櫻井さんご自身も、昆虫食を手掛けるFUTURENAUT(フューチャーノート)という会社を2019年に設立しています。現時点で、日本国内で昆虫食を手掛ける企業はどの程度あるのでしょうか。

櫻井:「昆虫食の企業」をどのように定義するかによります。「昆虫を安定的に養殖し、それを食用に利用している会社」とすると、2024年2月時点で、私の知る限りでは20社程度です。

──昆虫食ビジネスを手掛ける会社のホームページをいくつか確認したのですが、多くの会社がコオロギを用いていました。昆虫食ビジネス業界では、なぜコオロギが人気なのでしょうか。

櫻井:まず、コオロギは養殖しやすい昆虫です。イナゴのように自然採集型の昆虫を扱ってしまうと、突発的に需要が高まったときに、供給が追い付きません。生産量のコントロールができないのです。

 また、需要が増えたときに、乱獲により生態系にダメージを及ぼしかねません。昆虫食ビジネスでは、使用する昆虫は自然界とは切り離して養殖できるものが好ましいと思います。

 さらに言うと、コオロギは集密飼育ができる昆虫です。カブトムシを飼ったことがある方は多いと思いますが、幼虫をさなぎにするときには、一つずつ容器を分けなければなりません。1匹1匹のサイズは大きいですが、集密飼育ができないので、生産性が悪い。

 次に、コオロギは餌の入手が容易です。養鶏用飼料、養殖魚用の飼料など身近なもので飼育できます。

 最後は、やはり味です。昆虫の中では、コオロギは比較的風味が良く、食べてみて、親しみがない味はしません。

 養殖のしやすさ、餌、味。この3つの条件をクリアしていて現時点で優位性があるのがコオロギです。今後、生産量を安定的に増やしていける可能性が高い昆虫、ということで、多くの企業がコオロギの食用化を試みている状態です。

──「風味が良い」とのことですが、コオロギはどんな味なのですか。