アンモナイトと言えば、ぐるぐると巻いている貝殻を想像する人も多いだろう。恐竜の次くらいに有名な古生物ではないだろうか。
だが、アンモナイトがイカやタコに近い生き物であることを知る人は、果たしてどのくらいいるのだろうか。ぐるぐると巻いている殻が何種類もあることも。
アンモナイトの殻はなぜ巻いているのか、なぜ巻き方に違いがあるのか。『アンモナイト学入門 殻の形から読み解く進化と生態』(誠文堂新光社)を上梓した相場大佑氏(公益財団法人深田地質研究所研究員)に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)
──ずばり、アンモナイトの魅力とは?
相場大佑氏(以下、相場):最大の魅力は、本体が謎のベールに包まれていることです。化石として発見されるアンモナイトってほとんどが「殻」の部分なんです。その殻の中には、イカのような複数の腕を持つ「本体」が入っていたと推測されています。
アンモナイトに限らず、生物のからだのやわらかい部分(軟体部)は、化石になる前に腐ってしまいます。なので、アンモナイトの「本体」を含めた全体の姿って、実はまだよくわかっていないんです。それなのに、彼ら、彼女ら(※)が作った殻だけが、やたらと化石として見つかる。尻尾は見せてくれるのに、姿をなかなか見せてくれない。
※アンモナイトには「オス」と「メス」がいたことが明らかになっている。
アンモナイトの化石を丹念に調べると、ちょっとずつ彼ら彼女らの生物らしい側面が見えてきます。それが、アンモナイトの魅力、そしてアンモナイト研究の魅力だと思っています。
アンモナイトの殻が巻いている理由
──アンモナイトの殻って、なんでぐるぐる巻いているんですか。
相場:それは、アンモナイトの進化を考えるとわかります。
アンモナイトの祖先は、バクトリテスという棒状の殻を持つ頭足類(※)です。それがデボン紀になると、一部の殻を持つ頭足類の殻がぐるぐると巻いてアンモナイトが登場しました。
※現在、地球上に生息している頭足類としてはイカやタコ、オウムガイなどが挙げられる。
なんで殻が巻いたのか。これは、デボン紀がいろいろな魚が登場した時代だということに大きくかかわっています。その前の時代にも、もちろん魚は存在していました。その頃の魚は、そこまで早く泳ぐことができず、アゴの力も弱かったと考えられています。
でも、デボン紀になると、ヒレが発達して猛スピードで泳げる魚や、強靭なアゴでほかの生物をバクバク食べるような魚が登場しました。そんな魚を前に、アンモナイトはなすすべなく捕食されていたのではないかと考えられています。
捕食をまぬがれるためには、早く泳げた方が有利です。早く泳ぐためには、細い棒状の殻よりも、巻いた殻の方がいい。実際に、棒状の殻の頭足類よりも、アンモナイトの方が早く泳げるという解析データも示されています。
早く泳げるぐるぐると殻が巻いたアンモナイトが選択的に生き残ったというのが現在のところの定説です。