組事務所を家宅捜索する警察。たいてい押し問答になるが、一種のセレモニーだという(写真:共同通信社)

 暴力団は反社会的勢力であり、警察の取り締まりの対象である。でも、なんだかんだで日本人はヤクザが好きだ。幕末・明治時代に活躍した清水次郎長に始まり、岩下志麻主演「極道の妻たち」や北野武脚本・監督の「アウトレイジ」など、任侠映画は一つのエンターテインメント分野として確立されている。

 ただ、任侠映画はあくまでもフィクションであり、ファンタジーの一種。それでは、本物のヤクザはどのような暮らしをしているのか。『俺たちはどう生きるか 現代ヤクザのカネ、女、辞め時』を上梓したノンフィクション作家の尾島正洋氏に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

ケガをした時は闇医者にかかったりするのでしょうか?

──ヤクザの人というのは、一目見て「この人はヤクザだな」とわかるような恰好をしているのでしょうか。

尾島正洋氏(以下、尾島):その人の趣味によりますね。「ヤクザっぽい」恰好をしている人もいます。パンチパーマをかけていたり。ただ、最近ではスーツにネクタイでばっちり決めて、ぱっと見、ビジネスマンのような人もいます。

──ヤクザというと、対立抗争で拳銃がよく使われているイメージがあります。ヤクザは皆、拳銃を使い慣れているのでしょうか。

尾島:実際に現場で拳銃を撃った経験があるという人は少ないです。拳銃は取り扱いがとても難しいとヤクザの人は口を揃えます。映画やドラマに出てくるように、片手で相手に向けて発砲して命中なんてことはまずないそうです。

 多くのヤクザは、東南アジアで射撃練習をしています。あのあたりは、合法的に拳銃を撃てる射撃練習場がありますからね。ただ、何度練習してもなかなか上達しないのが現実だそうです。

──暴力団組員は携帯電話の契約ができない、銀行口座開設ができないなどいろいろな制限があると思います。パスポートを持って、海外に行くことはできるんですね。

尾島:パスポートの取得はできますが、国によっては入国を断られることもあるようです。特定の人物を「この人物は我が国にとって好ましからざる者であるから、入国させない」と政府が認定している。それで入管で戻されてしまう。

──書籍内で「ヤクザにとって国民健康保険は必須」と書かれていました。

尾島:暴力団同士の対立抗争のことを「喧嘩」と言いますが、喧嘩はいつどこで起こるかわかりません。喧嘩の現場に駆けつければ、拳銃で撃たれるかもしれませんし、刺されるかもしれない、殴られて大怪我をするかもしれない。

 そういったことを考えると、治療費10割負担は手痛い出費ですよね。国民健康保険に入っておけば、治療費は3割で済みますから。

──ヤクザも健康保険料をきちんと納めているんですね。

尾島:そうですね。ただ、この業界の人たちは所得がないということになっていますから、保険料も最低レベルです。

──ケガをした時は闇医者にかかったりするのでしょうか。

尾島:そんなものないですよ(笑)。喧嘩はどこで起きるかわからない。ケガをしたら普通に119番通報して、最寄りの病院に救急搬送してもらう。これが一番安全です。