民進党の頼清徳・副総統が勝利した台湾総統選(写真:共同通信社)

 2024年1月13日に行われた台湾総統選は日本でも大々的に報道された。米国との関係強化を重視する民進党の頼清徳・副総統が新しい総統に選出されたことで、台湾と中国の関係悪化を指摘する専門家も多い。

 台湾には公平な選挙制度があり、中国という「国」と対立している。ということは、台湾は「国」だ。そう認識している人もいるだろう。この認識はあながち間違ってはいない。

 ここでオリンピックを思い出してみよう。台湾の選手たちは「チャイニーズタイペイ(中華台北)」の代表としてオリンピックに参加していた。「チャイニーズ」が付いているということは、台湾は中国の一部なのだろうか。

 台湾は国なのか、それとも中国の一部なのか。なぜ中国と台湾は対立しているのか──。『台湾の本音 “隣国”を基礎から理解する』(光文社)を上梓した野嶋剛氏(大東文化大学社会学部教授、ジャーナリスト)に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──台湾は「国」なのでしょうか。

野嶋剛氏(以下、野嶋):結論から言うと、台湾は「国」です。

 1933年に「国家の権利及び義務に関する条約(モンテビデオ議定書)」が締結されました。この条約では、国家の資格要件が明文化されています。それによると、「国であるための条件」は、「国民」「領土」「政府」、そして「他の国家と関係を結ぶ能力」の4つです。

 台湾には、領土も独自の政府もあります。その領土内に暮らす人、要は国民もいる。ただ、台湾こと中華民国は1971年に国際連合を脱退しました。政府レベルの外交関係がある国も12カ国しかない(2023年1月16日時点)。つまり、台湾が「国」として不足している要素は「他の国家と関係を結ぶ能力」だけです。

 このような状態の国は「未承認国家」と呼ばれます。他国から国であるという承認こそ足りていないが、国であるための条件はほぼ満たしているということです。そのため、私は「台湾は国か」という質問に対しては「台湾は未承認国家です」という回答が一番妥当だと思っています。

──今のお話で「中華民国」という国名が出てきました。中華民国とは、どのような国なのでしょうか。

野嶋:ユーラシア大陸において「中国」の領土を実効支配した王朝を、歴史の授業で暗記した人も多いかもしれません。古い順に、「殷」「周」「秦」「漢」「三国」「晋」「南北朝」「隋」「唐」「五代」「宋」「元」「明」「清」「中華民国」「中華人民共和国」。「中華民国」の次が「中華人民共和国」です。

 中国という国家について考えるとき、時間を縦軸にすると、中華民国と中華人民共和国は継承政権の前と後の関係にあります。

 1949年に毛沢東が天安門広場で中華人民共和国の建国宣言をし、中国は中華人民共和国に統治されるようになりました。その一方で、継承前の国家である中華民国は逃亡政権として台湾に逃げ込みました。

 新しい国が中国にできたにもかかわらず、中華民国は滅ばなかった。その状態は、現在も続いています。中華民国は、今も台湾で生き続けているのです。

 ちょっとややこしいかもしれませんね。実はこの話、幕末の日本に例えるとわかりやすいんです。