中国と台湾の絶妙なバランスはいつまで続くか?
野嶋:日本と米国の間には、日米安全保障条約が締結されています。日本は集団自衛権を行使するという名目で、米軍を支援しなければならない。否応なく、日本は台湾有事に巻き込まれることになります。
また、沖縄には極東最大の米空軍基地である嘉手納基地があります。台湾有事に米国が軍事介入したら、中国は嘉手納基地を標的にするでしょう。最新鋭の戦闘機がいっぱいありますからね。それを潰すために、ミサイルを撃ち込んでくるかもしれない。
そうなったら、日米安保に基づく集団的自衛権だけではなくなります。憲法9条の解釈の仕方にもよりますが、日本は主権国家としての固有の自衛権を有していると考えられます。集団的自衛権と自国の自衛権を行使し、中国と戦わなければならない。そういう可能性もあり得るのです。
台湾海峡で中台の軍事衝突が起こるか起こらないかという話と、日本が台湾有事にどのようにかかわるのかという話はリンクしています。ただ、台湾の国際的な立場や、日本の法律や国際条約をきちんと理解した上で考える必要があります。
──現在のような中国と台湾の絶妙なバランス関係は、どのくらい続くのでしょうか。
野嶋:あと10年程度でしょうか。台湾が、ときに中国に近付くような様子を見せたとしても、中国との統一を望む人は今の台湾にはほとんどいません。長い目で見ると、台湾はどんどん中国から離れていっている。中国も、薄々それに気づいています。
中国の絶対的権力者とも言われる習近平は、2023年に国家主席に選出され、政権は3期目に入りました。中国の国家主席の任期は5年。習近平は現在70歳ですので(2023年1月16日時点)、4期目に突入することも十分にあり得ます。2033年まで、習近平政権が続くことも考えられます。
それまでに、台湾が自ら中国に歩み寄り、平和的対話で台湾統一が達成される可能性は極めて低い。4期目の任期満了までに習近平が台湾問題を片付けようとすると、軍事侵攻以外の選択肢はありません。そのため、2033年頃が厳しい局面になるのではないでしょうか。
ただ、あと2~3年で中国が動くかと言うと、その可能性はないと思います。台湾という大きな島に上陸して、完全に攻め落とすことは非常に難易度の高い軍事ミッションです。中国の人民解放軍には、まだそのミッションを遂行するだけの軍事力がありません。
習近平は、台湾問題は中国の核心的利益の中の核心であり、絶対に妥協しないと断言しています。それは本音だとは思いますが、実際に行動を起こせるかと言うと、今は時期尚早でしょう。
ただ、中国は急速に軍事力を増強しています。台湾有事は、何らかの形で遠からず起きてしまう問題かもしれません。
──平穏が続くであろう向こう10年、日本はどのような振る舞いをすべきでしょうか。