芸能人や政治家の不倫報道などを目にすると、思わず皮肉を言ってからかいたくなるが、「そもそも人は一人の人だけをずっと愛するようにできているのか」と問われると、答えに窮するのではないだろうか。それでは、双方が合意のうえで複数の恋人を持つことは可能なのか。
実際にそのような考え方を持ち、実践する人が増えているらしい。『もう一人、誰かを好きになったとき ポリアモリーのリアル』(新潮社)を上梓した、評論家の荻上チキ氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──荻上さんは、ポリアモリー(複数愛)について本を書かれました。ポリアモリーとは何でしょうか?
荻上チキ氏(以下、荻上):ポリアモリーは、日本語では「複数愛」などと訳されます。合意に基づいて複数の人と同時に付き合う、あるいは、同時に複数の人を好きになる人、こういった人々のことを「ポリー」、そのような人たちによる恋愛の実践を「ポリアモリー」と呼びます。
これに対して、一般的に理解されている1対1の恋愛は「モノアモリ―(単数愛)」と呼ばれます。
──「ポリアモリー」という言葉はどの程度普及しているのですか?
荻上:2022年から2023年に行った私たちの調査では、「ポリアモリー」という言葉を知っている日本人は人口の一割以下でした。まだ決して多くはありません。
──この本を書くにあたり、海外の文献を含め、様々な資料を読み込むとともに、実際にポリーの方々にインタビューしています。調査を通して、お感じになったことを教えてください。
荻上:日本にも多くのポリーがいるということが確認できました。そもそもポリアモリーは、アメリカにおけるフェミニズム・ムーブメントの影響を受けて発生した概念です。60年代のヒッピーカルチャー、性革命、新しい自由を求める動きに対する一定の批評と反省、そして実践が組み合わさって、90年代から広がり始めました。
日本にも、複数の人たちを好きになったり、合意のもとに複数で交際したりする人たちがいます。その人たちはただ自由を謳歌しているというわけではなく、日本に強固に存在する「恋愛は1対1であるべきだ」「そうでない恋愛をする人は異常だ」という規範との間で葛藤したり、パートナーとの相互理解のために調整したりしています。
──ポリーの方々が、自分がポリーであることを告げ、そのような生き方(他にも恋人を持つこと)を認めてほしい、許してほしいと恋人や配偶者に相談したときの、相手の反応を多数紹介されています。
荻上:これは本当に、十人十色の反応がありました。「ぜんぜん問題ないよ」「そういう関係をさっそく始めてみよう」と即座に実行に移してみる人もいれば、拒絶、別れ、衝突、ケンカになるケースもあり、場合によっては訴訟に発展することもあります。
もちろん、交際の初めの段階から自分がポリーであると告げている場合と、「後だしポリー」などとも言われますが、交際や婚姻をしてから自分のポリアモリスな感覚に気づいて、それを相手に伝える場合もあり、後者の場合には、より衝突が起こることがあるようです。
でも、いずれの場合も、重要なことは相手をいかに尊重するかということです。
ポリアモリーな感覚を主張すると、「手前勝手」と受け取られることもあります。ただ一方で、相手を傷つけることを最小化したいという思いもそこにはある。
自分がポリアモリーな関係性を築くことで、相手が嫉妬をしたり、傷ついたりすることがあります。複数の相手がいれば、スケジュール調整などで、なかなかタイミングが合わないこともあるでしょう。
だからこそ、そのような葛藤や齟齬が生じた場合に、調整の努力をしましょうという約束を交わすのです。