台湾総統選で勝利した民進党の頼清徳氏(写真:AP/アフロ)

 2024年1月13日、台湾総統選挙が開票された。第7代総統の蔡英文氏から引き継ぐかたちで、民進党の頼清徳主席が新しい総統となる。米国との関係強化を重視する民進党政権が続くことにより、台湾と中国の溝はますます深まることが懸念される。

 1月16日には、自民党外交部会の台湾政策検討プロジェクトチームの会合が開かれた。その席で、元外務副大臣の鈴木馨祐座長は「台湾有事の可能性は予断を許さない状況」と説明した。

 果たして、台湾有事は本当に起こるのか。『台湾有事 日本の選択』(朝日新書)を上梓した、軍事ジャーナリストの田岡俊次氏に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──中華人民共和国(以下、中国)が「一つの中国」という政治的な原則に基づき、台湾に対し武力行使を行った場合、日本は日米安保のもと、米国とともに中国と闘うという内容の報道を見聞きします。このような考え方について、田岡先生は矛盾したものであると指摘されています。

田岡俊次氏(以下、田岡):1972年に田中角栄総理(当時)が中国の周恩来国務院総理(当時)と会談し、日中共同声明を発して署名しました。

 この声明の中で、日本政府は中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認。中国も、同声明で台湾が自身の領土の不可分の一部であることを表明しています。

 この表明に対し、日本政府は中国政府の立場を十分理解し、尊重する立場を堅持するという姿勢を打ち出しました。この共同声明を再確認するかたちで、6年後の1978年には両国は日中平和友好条約に署名調印、批准されました。つまり、日本は「台湾は中国という国家の一部である」ということを「十分に理解し、尊重」しなければならないということです。

 同様に、米国も1972年にニクソン大統領(当時)と毛沢東主席(当時)の会談で米中共同声明(上海コミュニケ)を発表しています。その中で、「中国は一つであり、台湾は中国の一部である」という中国の主張に対し、米国は「認識(Acknowledge)」し「異論を唱えない」としました。米国政府は、今日も「中国は一つである」「台湾の独立は認めない」と言明しています。

 したがって、中国と台湾が武力衝突したとしても、それは中国国内の内戦ということになる。国連では、内戦に対して第三国は不干渉であるべき、という「不干渉義務」が確立しています。中国が台湾に武力侵攻したとしても、米国であれ日本であれ、それに干渉してはならないということです。

──書籍中では、ロシアによるウクライナ侵攻と台湾有事を比較し、米国や日本の立場について説明されています。

田岡:2014年、ウクライナのクリミア半島が、住民投票によって無血でロシアに併合されました。その熱気はウクライナ東部に伝播し、ドネツク州とルハンスク州では、ロシア系住民によるウクライナ政府に対する反乱が勃発しました。

 ウクライナ政府は内乱を鎮圧しようとしたものの、反乱軍もなかなか屈せず、8年にわたり内戦が続きました。

 その間、2回も停戦協定が結ばれましたがウクライナが納得することはありませんでした。ロシアはウクライナ国境地帯で軍事演習を行い、威嚇しましたが効果がなく、振り上げた拳を下すかたちでウクライナに侵攻しました。

 ロシアの軍事侵攻の目的は、ドネツク州、ルハンスク州などロシア系住民が多くいる州のウクライナからの独立分離支援、そして自国への併合でしょう。

 仮に米国が、台湾独立を武力で支援するようなことがあれば、それはロシアがウクライナ東部・南部4州でしたことと等しい。

 また、ウクライナ侵攻では、ベラルーシがロシア軍の中継地として使われていました。日本が台湾有事で米国を支援するようなことがあれば、日本の立場はロシア・ウクライナ戦争におけるベラルーシと同等となります。

──しかし、日本と米国は、明らかに台湾有事を想定した共同軍事演習をたびたび行っています。