
今月4日から全国政治協商会議(全国政協)、5日から全国人民代表大会(全人代)、2つ合わせて通称「両会」と呼ばれる春の大政治イベントがスタートした。全人代の開幕式では李強首相が政府活動報告を読み上げた。だが、今年の全人代はいま一つニュースバリューが薄い。理由の一つは全人代の主役であるべき李強首相の存在感がないこと。もう一つは最近のトランプの派手な言動の影に、中国の両会ニュースがかすんでしまったこと。
だがもっかの複雑な国際環境において、習近平が今年、どのような政策、戦略を立てているのかを見定めることは重要だ。今年の全人代政府活動報告の重要ポイントを拾ってみたい。2回に分けて解説する。
(福島 香織:ジャーナリスト)
>>(前編から読む)中国が掲げる「AI+」構想、DeepSeek効果で自信深める?全人代で盛り上げるも「絵に描いた餅」の可能性
習近平の下で国防予算は2倍以上に
私が気になるのはやはり、安全保障関連への言及だ。
政府活動報告では、建軍100年奮闘目標をしっかり打ち出し、練兵戦争準備を推進し国家主権と安全の防衛を強化し、軍種をまたいで改革を協力して推進する、としていた。
中国の2025年国防予算は前年比7.2%増で去年と同じ増加幅、総額1.78兆元だ。連続4年7%越え。習近平が2013年に国家主席に就任して以来、すでに総額で倍以上になった(2013年は7200億元)。国防予算額としては米国に次ぐ世界2位。今世紀半ばまでに米国と肩を並べる世界一流の軍事強国となるという目標は「絵にかいた餅」とは言えないかもしれない。
それを米国が阻むというなら、ロシア・ウクライナの戦争終結後に、米中の軍事緊張の未来が待ち受けていよう。トランプがロシアに多少妥協しても早々に東欧の戦争を終わらせたいのは、インド太平洋をめぐる中国の軍事的脅威に備えたいからだろう。
この中国の軍事的脅威に具体的にかかわってくるのが、台湾問題だ。
政府活動報告での台湾に関する言及のニュアンスは注目に値する。
「われわれは、新時代の台湾問題解決に向けた党の全体戦略の貫徹を堅持し、一つの中国原則と92年コンセンサスを堅持し、台独分裂と外部勢力の干渉に断固反対し、両岸関係の平和発展を推進しなければならない。両岸の経済・文化交流と協力を促進する制度と政策を改善し、両岸の融合発展を深め、台湾海峡両岸の同胞の福祉を増進し、祖国統一の偉大な大業を揺るぎなく推し進め、手を携えて民族復興の偉業をともに創造する」
ちなみに昨年の政府活動報告では、「和平統一」という言葉が使われなくなったことで、中国の台湾に対する態度が強硬になったという分析があった。ならば今年の政府活動報告で、昨年なかった「両岸の経済・文化交流と協力を促進する制度と政策を改善し、両岸の融合発展を深め、台湾海峡両岸の同胞の福祉を増進」という表現が加えられたのは、習近平の台湾に対する姿勢が軟化したと言えるのだろうか。