台湾総統選を受け勝利宣言する民進党の頼清徳氏(写真:AP/アフロ)台湾総統選で勝利した民進党の頼清徳氏(写真:AP/アフロ)
  • 1月13日実施の台湾総統選で、対中強硬派とされる民進党主席の頼清徳氏(現副総統)が当選。これにより台湾海峡の緊張が高まると予想されている。
  • たしかに中国の威嚇や揺さぶりがさらに強まる懸念はあるが、経済の低迷や軍の動揺など中国の国内事情から台湾本島への武力侵攻に踏み切ることはないだろう。
  • むしろ真の危機が訪れるとすれば、11月の米大統領選の結果次第で米国の外交姿勢に不確実性が高まった時だ。(JBpress)

(小原 雅博:東京大学名誉教授、元外交官)

頼清徳・次期総統を中国は「分離主義者」と非難していた

 注目されていた台湾総統選挙が終わった。国際政治を俯瞰する研究に努めて来た筆者にとっては、選挙結果そのものを分析することよりも、その影響、すなわち、武力統一の選択肢を排除していない中国の対台湾政策や米中関係がどうなるかを分析することの方が重要である。本稿は、そのための一考察である。

 さて、4年ぶりの総統選挙では、選挙前の世論調査の結果通り、民進党主席の頼清徳氏(現副総統)が当選した。中国が「分離主義者」と名指しで非難していた人物である。従って、この結果は、中国の武力統一への意思を強め、台湾海峡の緊張をさらに高めるのではないかとの懸念を惹起する。

 結論的に言えば、筆者は、今回の総統選挙の結果によって戦争が起きるわけではないが、台湾海峡の現状が厳しいことに変わりはなく、頼新政権の政策いかんではさらに厳しいものとなると見ている。中国の軍事的威圧を含む強硬姿勢が強まる可能性があるということであり、それ以上でもそれ以下でもない。

 それは、戦争ではないが、平和も意味しない。

戦争にはならないが緊張は続く

 戦争か平和かという議論は、得てしてその間にあるグレイ・ゾーンを放置してしまいがちである。筆者は、中国が武力統一に踏み切らなければ台湾海峡は平和だとの認識には立っていない。中国の威嚇や揺さぶりはあらゆる領域で激しくなっており、常態化している。戦争にならないからと言って、そんな現状がなくなるわけではない。むしろ強まることを懸念している。

台湾海峡では米駆逐艦に中国戦艦が「異常接近」するなど緊張が高まってきた (写真提供:U.S. Navy/Mass Communication Specialist 1st Class Andre T. Richard/ロイター/アフロ)台湾海峡では米駆逐艦に中国戦艦が「異常接近」するなど緊張が高まってきた (写真提供:U.S. Navy/Mass Communication Specialist 1st Class Andre T. Richard/ロイター/アフロ)

 そのことを申し上げた上で、中国が台湾本島への武力侵攻に踏み切ることはないだろうと見ているということである(台湾本島以外の金門・馬祖や東沙諸島・太平島については別途検討の要があるが、詳細は拙著『戦争と平和の国際政治』(ちくま新書)に譲る)。

 なぜそう見るか? その理由はいくつか指摘できる。