- 国際司法裁判所がイスラエルに対し、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡ってジェノサイドを防ぐ措置を講じるよう命じた。
- イスラエル-ハマス戦争では国際社会の分断も顕著となり、「法の支配」に基づく国際秩序そのものが正統性を失いかねない事態になっている。
- 自衛権の発動としての武力行使は許されるが、戦争法や国際人道法を無視してよいわけではない。(JBpress)
(小原 雅博:東京大学名誉教授、元外交官)
国際司法裁判所が仮保全措置命令
国際社会の「最後の法の番人」と言われる国際司法裁判所(以下、ICJ オランダ・ハーグ)は、1月26日、イスラエル・ハマス戦争をめぐる問題について重要かつ波及効果のある判断を仮保全措置命令として下した。
それは、ガザ地区でのイスラエルの軍事行動がジェノサイド(集団殺害)条約に違反するとして、その即時停止を含む仮保全措置を求める南アフリカの提訴を受けてなされたものである。ICJは、イスラエルに対して、ジェノサイドの可能性のある行為やジェノサイドを扇動する行為の防止並びに人道支援の実施のためにあらゆる手段を講じるとともに、1カ月以内にその順守状況を報告するよう命じた。
これら6件の仮保全措置について、17人の判事は、16対1、又は15対2の多数で採択した。そのうちの2件については、イスラエル人判事も多数論に賛成している。
その一方で、イスラエルがジェノサイドの責任を負うかどうかの判断、さらにはそもそもICJに裁判管轄権があるか否かの判断を下しておらず、攻撃の即時停止を命じる判断も下さなかった。最終的判断には数年を要すると見られることから、現状の緊急性とガザのパレスチナ人の権利擁護の妥当性の観点から、必要な仮保全措置命令を速やかに発したのである。
南アフリカやパレスチナ自治政府はICJの判断を歓迎したが、請求棄却を求めていたイスラエルには厳しい裁定となった。ネタニヤフ首相は、仮保全措置命令には言及することなく、「国際法順守の責務を堅持するのと同じように、イスラエルの国家と国民を守るという神聖な責務も堅持する」と述べた上で、「こうしたイスラエルの基本的権利を否定しようとする恥ずべき試みはユダヤ国家への露骨な差別であり、正しく拒絶された」との声明を発表した。
米国国務省スポークスマンは、紛争の平和的解決におけるICJの重要な役割に言及し、市民の被害を最小限にするあらゆる措置を執る必要があるとのバイデン政権の立場を強調した上で、次の通り述べている。
≪(イスラエルの攻撃が)ジェノサイドであるとの申し立てが根拠のないものであると引き続き信じており、ICJが、ジェノサイドについて認定することがなく、また停戦を求めることもなかったこと、そしてハマスに連れ去られた人質の無条件即時解放を求めたことに注目している≫
≪ICJの判断は、イスラエルが国際法に従って、10月7日のようなテロ攻撃の再発を防止するための行動を取る権利を持つとの米国政府の見解と一致する≫
米国はイスラエルの法的正当性を強調するが、イスラエルの権利とガザのパレスチナ人の権利の関係をどう捉えるべきだろうか?