東京地検特捜部は、自民党・清和会に所属する池田佳隆・衆議院議員と、その政策秘書を逮捕した。池田容疑者の指示で、証拠隠滅のために関係先にあったデータの記録媒体が破壊された疑いも浮上している。特捜部は、同じく清和会所属の谷川弥一衆院議員と、大野泰正参院議員も立件する方針を固めている。
政治資金収支報告書への未記載から始まった今回の問題は、政治資金規正法や自民党の派閥のあり方へと世間の関心が拡大している。そもそも派閥は悪なのか。派閥は今後も存続していくのか。政治史学者で、東京大学先端科学技術研究センター フェローの御厨貴氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──政治資金パーティーを巡る問題が連日報道されています。岸田首相は先日、政治刷新本部を立ち上げ、菅義偉元総理と麻生太郎元総理を最高顧問に、事務総長に木原誠二幹事長代理を据える考えを発表しました。政治刷新本部では、政治資金の透明性の拡大や派閥のあり方を議論していくそうです。「この布陣では大きな改革は望めない」といった声も自民党内にはあるようですが、どう思われますか。
御厨貴氏(以下、御厨):まず、2人の元総理が顧問になる刷新本部とはどういうものかと疑問が浮かびます。かたや派閥の代表、かたや無派閥の代表、この2人から始めると議論の幅がすでに決まっている。早くも幕引きの意思が透けて見えます。
もちろん、「政治資金の透明性」や「派閥のあり方」などを議論はしていくのでしょうが、この布陣では最初から及び腰だという印象を受けます。
若い人を入れて、その人たちを中心にしてやっていくということなら分かる。でも、事務総長に木原さんを据えているところから見ても、「上からコントロールしていこう」という考えがうかがえます。この政治刷新本部がどこまでできるのか、私にははなはだ疑問です。
──派閥の解消を求める声も出ています。先日、野田佳彦元首相をインタビューした時も、野田さんは「自民党の派閥はかつても何度も問題視されてきたが、解消されず、ゾンビのように何度でもよみがってくる」と話していました。今回の政治資金パーティーを巡る問題を経て、自民党の派閥はどうなっていくと想像されますか?
御厨:このまま何事もなく済む、というわけにはいかないと思います。従来、派閥のあり方が問題になった時には、いったんは派閥を解散させてきました。「我が派は派閥の本部を閉めます」と会長が派閥の解散を宣言したのです。
ところが、しばらく経つと、野田さんが「ゾンビ」と揶揄するように、再び起き上がってくる。叩いても、叩いても、自民党の派閥は組織の一部分であるかのように再起して動き始めます。本格的に「派閥を無くして一からやりましょう」とはなかなかいかない。
自民党はいろんな組織から頼まれて議員になる人が多い党ですから、それだけお金の問題も出てくるのです。その点、野党のほうは政治資金をたくさん集めて何かをしなくとも、透明性を持ってちゃんとやれている。
──派閥を解散しても、再び起き上がってくる可能性があるということですが、その場合、まったく新しい形の派閥が出てくるのでしょうか。それとも、今の宏池会や清和会などのつながりそのままに、再び同じ派閥の塊が復活してくるのでしょうか。
御厨:歴史を振り返ると、このような場合の解散は「偽装解散」です。解散している間に派閥が分散して、新しい形で出てくるのではなくて、今の派閥の構成メンバーが変わることなく復活して、いつの間にかそこに会長が据えられる。
この従来の流れに従うと、解散して再結集する際に、何かを変えるという意思表示もありません。「とりあえず表立って集まらないようにしましょう」という感覚です。表立ってやらない分だけ今後は裏で手が込んでくる。
──立憲民主党は、政治資金規正法を改正し、党への献金、支部への献金、政治資金パーティー、いずれも禁止していくことを求めていく考えのようです。そのような改革にまで至る可能性はあると思いますか?