グリーンランド 氷床融解が加速しているグリーンランドの氷床(写真:AP/アフロ)

 2015年12月のCOP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)で採択されたパリ協定では、2020年以降の温室効果ガス削減に関する世界的な取り組みが示された。だが、グリーンランドと南極を覆う氷床は急激なペースで減少。人間の活動により引き起こされた温暖化などにより、2001年以降、世界各地で100種を超える生物が絶滅したと主張する研究者もいる。これを「第6の大量絶滅の時代」の始まりとする報道もある。

 地球は今後、大量絶滅の時代に突入していくのか、地球温暖化は生態系にどのような影響を及ぼすのか、そして今、我々が考えるべきこととは何か。『大量絶滅はなぜ起きるのか 生命を脅かす地球の異変』(講談社)を上梓した、尾上哲治氏(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門教授)に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──「地球は、6回目の大量絶滅の時代を迎えつつある」という声もありますが、尾上先生は疑問を呈しています。

尾上哲治氏(尾上):これは非常に難しい問題です。地球は、過去5回の大量絶滅の時代を経験しています。「第6の」と言われたら、過去5回の大量絶滅に肩を並べるようなものを想像するような方も多いのではないでしょうか。

 地質学者は「大量絶滅」を「300万年以内に75%以上の種が絶滅する現象」と定義しています。さらに、大量絶滅の特徴として、世界的に広い範囲に分布しており、個体数の多い生物が絶滅していることが挙げられます。また、大量絶滅を引き起こす要因は、何かしらの自然に起きた地球環境の変化であると地質学者は捉えています。

 今現在、世界中のどこにでも生息している分類群の生物が絶滅しているかというと、そうではない。また、今起きている地球環境の変化は、自然なものではなく、人間の活動によるものだと考えられています。そういったことを考えると、現状を過去5回の大量絶滅と並べるのは違和感がある。

 今後は、どのような地球環境の変化が人為的に起これば、過去5回の大量絶滅に匹敵する現象が起こるのかということを考えていく必要があるのかもしれません。あくまでも私の予測ですが、現在から+6~7度程度の温暖化が起これば、過去5回の大量絶滅と同レベルの絶滅が起こるかもしれません。

──地球環境が劇的に変化する転換点を「ティッピングポイント」という言葉で説明されていました。

尾上:ティッピングポイントとは、もともとは小さな変動が徐々に蓄積していった結果、それを超えると劇的な変化が起こる「臨界値」です。

 地球には、その環境などを左右する様々な構成要素があり、それぞれの要素にティッピングポイントがあると考えられています。そのティッピングポイントを超えると地球環境は劇的に変化し、人類の生存が脅かされる不可逆的で危険な状態に突入します。

 わかりやすい例として、グリーンランド氷床について考えてみましょう。

 グリーンランド氷床のティッピングポイントは、「3度の温暖化」です。それ以上の温暖化が起こると、氷床が融け、海水面が2~7メートル上昇します。昨今では、温暖化による海面上昇で島しょ部を多く抱える国で、海が集落に迫ってきているというニュースも報道されています。

 温暖化が進めば、人類の生息域が海に侵食されていきます。これは、人類の生存にかかわる大きな問題です。

──特に「アマゾンの熱帯雨林」のティッピングポイントに注目されています。