北極海の現状。温暖化によって地政学的な価値が高まっている(写真:ロイター/アフロ)

 2023年8月現在、ロシア・ウクライナ戦争の報道を目にしない日はない。また、中国が虎視眈々と台湾侵攻を目論んでいるというニュースも頻繁に見聞きする。

 そのロシアと中国が、北極海に対するプレゼンスを高めようと躍起になっている。もちろん、欧米諸国も同様だ。このような北極海にかかわる動きは、日本ではあまり話題にはならない。

 しかし、ロシアと中国の北極海でのプレゼンス強化は、今後日本にも影響を及ぼす。そう指摘するのは、石原敬浩氏(海上自衛隊幹部学校教官・二等海佐/慶應義塾大学非常勤講師)である。

 ロシアと中国は北極で何をしようとしているのか、欧米諸国はそれらの動きにどのような対応をしているのか、地球温暖化は北極海をどう変化させるのか──。『北極海 世界争奪戦が始まった』(PHP新書)を上梓した石原氏に話を聞いた。

(聞き手:関瑶子、ライター・ビデオクリエイター)

──なぜ今、北極海に注目が集まっているのか、改めてご説明をお願い致します。
 
石原敬浩氏(以下、石原):
北極海が着目される理由としては、昨今のロシアの戦略的な挑戦と地球温暖化の2点が挙げられます。

 2022年8月、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は「ロシアと中国が連携して北極におけるプレゼンスを高めようとしている。これは、NATOに対する戦略的な挑戦である」と発言し、強い警戒感をあらわにしました。

 また、地球温暖化により北極海の氷は減少の一途をたどっています。それにより、これまで氷で閉ざされていた北極海を船が航行できるようになる。新しい航路が開発されるのです。

 ドイツのハンブルクから横浜への航路を例にすると、現在のインド洋を経由する航路では、およそ2万1000キロ。北極海航路が開発されると、それが1万3000キロになる。約6割に短縮されるのです。

──そのほかに、地球温暖化により我々が北極海から享受できるメリットはあるのでしょうか。

石原:世界中の未発見の天然ガスの30%、石油の13%が北極圏に眠っていると言われています。

 現在の北極海は氷で覆われているために、掘削作業を行うことが困難です。でも、氷が融けると普通の海になります。そうなると、既にある掘削技術を利用して、海底から資源を掘り出すことが可能になる。

──2008年、北極海の沿岸5カ国(ロシア、ノルウェー、グリーンランドを自治領として保有するデンマーク、カナダ、米国)により、イルリサット宣言が発表されました。この宣言の目的はどのようなものなのでしょうか。