8月6日、第105回全国高校野球選手権記念大会、いわゆる「夏の甲子園」が始まった。出場校は49校。輝く栄冠を手にするのは、どの高校か。固唾をのんで、テレビの甲子園中継に釘付けになる人もいるだろう。
しかし、小林信也氏(作家・スポーツライター)と玉木正之氏(スポーツ文化評論家・日本福祉大学客員教授)は、ともに「真夏の甲子園はやめたほうがいい」と主張する。
夏の甲子園の何がいけないのか、高校野球はどうあるべきなのか、日本野球界が抱える問題とは何か──。『真夏の甲子園はいらない』(岩波書店)を上梓した、小林氏と玉木氏に話をきいた。(聞き手:関 瑶子、ライター・ビデオクリエイター)
──本書『真夏の甲子園はいらない』で、小林さんは真夏の甲子園はやめよう、と呼び掛けています。なぜ、そのような考えに至ったのでしょうか。
小林信也氏(以下、小林):直接的な要因は、昨今の異常なまでの暑さです。
数年前まで、僕は中学硬式野球の監督をしていました。ある日、40度近い炎天下で1日に3試合をこなしたところ、熱中症で一人の生徒が倒れてしまった。幸い、救急車で病院に搬送してもらい、事なきを得ました。これは僕にとって、猛暑下で野球をすることの危険さと、野球、特に高校野球の認識を大きく変える出来事でした。
教え子に取り返しのつかないことが起こった場合、僕自身、指導者として責任の取りようがありません。他の指導者の方にも、その点について徹底的に考えていただきたいと思っています。
また、高校野球は主にトーナメントで実施されます。そのためか「勝てばいい」という考え方がはびこっています。甲子園に出場するような強豪校ほど、勝つために卑怯なプレーをしがちです。
一例を挙げると、セカンドランナーが対戦相手のキャッチャーのサインを見て、バッターにサインを出す。禁止行為ですが、強豪の中には巧妙にやるチームがあります。セカンドランナーが素早くリードしたときは直球、ゆっくりリードしたときには変化球。審判もこの動きは駄目だとは言えない。
そういうことを知らずに、純粋に高校野球を見ていらっしゃる方がほとんどかと思います。でも、残念ながら高校野球はそういう世界なのです。
玉木和之氏(以下、玉木):負けたチームが次はどうやれば勝てるのかを考え、次の試合に挑む。それによって、チーム全体が、個々の選手が高まっていく。これがスポーツの醍醐味です。
トーナメントでは、「次の試合」はありません。トーナメントが浸透しているスポーツ(球戯)は、世界中で日本の高校野球くらいのものです。