2011年1月10日、朝日新聞の一面に「先生欠員 埋まらない」という見出しが躍った。先生が産休や育休、病休をとっても、代わりの先生がいない。そのため、授業ができない学校がある。そんな内容の記事だった。
だが、「先生欠員」というセンセーショナルな記事にもかかわらす、読者からの反応はほとんどなかった──。そう語るのは、記事を担当した氏岡真弓氏(朝日新聞編集委員)である。記事から10年以上を経て、なぜ読者の反応が薄かったのか理解できると氏岡氏は語る。彼女は、今でも教育現場の教員不足問題について取材を続けている。
教員不足とは何か、なぜそのような状態に陥ったのか、政府はどのような対応策を講じているのか。『先生が足りない』(岩波書店)を上梓した氏岡氏に話を聞いた。(聞き手:関 瑶子、ライター・ビデオクリエイター)
──本書では「先生が足りない」という教育現場の問題にフォーカスしています。「先生が足りない」という言葉は、どのような状態を意味するのでしょうか。
氏岡真弓氏(以下、氏岡):大きく分けて、教員は正規教員と非正規教員に分けられます。正規教員も非正規教員も、もちろん教員免許は持っています。
正規教員は、特定の都道府県の教員採用試験に合格した人たちです。本人から退職願いを出さない限りは、都道府県や政令指定都市にずっと雇用されるというイメージです。
一方、非正規教員は期間雇用です。正規の先生が産休育休に入る、病休をとるとなったときにショートリリーフを務めてくれる人たちです。非正規教員こそが公教育の底支えをしてくれている、と言っても過言ではないかもしれません。
現在、教育現場で不足しているのは非正規教員です。
世間では「先生が足りない」と言うと、正規教員が不足していると思ってしまうことが多い。非正規教員が不足している、となるとどうしてもインパクトが弱くなってしまいます。これが、「先生が足りない」という問題の難しい点だと感じています。
──「教員不足が社会問題となるのに時間を要した」と書かれていました。
氏岡:10年以上前から教員不足の問題は潜在していました。ただ、それは労働問題として捉えられていた。教員不足を子どもの学ぶ権利であると認識する人は少なかった。これが、教員不足の問題が一つの大きな社会問題として顕在化することが遅れた要因です。
先生がいなくて、まず困るのは先生です。