世界初のフルサイズミラーレスカメラ「α7」 (写真:Paul Hudson, CC BY 2.0 , via Wikimedia Commons)

 電気屋さんでデジカメを買う時代は終わった。スマホカメラがここまで高性能・高画質になった今、デジカメを持ち歩く理由がなくなったのだ。レンズ一体型(コンパクトデジタルカメラ)も一眼レフも市場が縮小していく中で、伸びているのはミラーレスのデジカメだ。そして、フルサイズミラーレスで業界ナンバーワンのシェアを持つのはソニーだ。

 いつから、そしてどのようにして、ソニーはキヤノンやニコンと互角に伍していけるデジカメメーカーになったのか。『ソニー デジカメ戦記 もがいてつかんだ「弱者の戦略」』(日経BP)を上梓した日経ビジネス シニア・エディターの山中浩之氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──なぜ、この本のタイトルはソニーの「デジカメ戦略」ではなく、「デジカメ戦記」なのでしょうか。

山中浩之氏(以下、山中):この本のテーマであるソニーのデジカメ戦略の歴史は、そのままビジネススクールで使えるのではないかというくらい興味深い内容だと思います。

 ただ、ソニーのデジカメ戦略を指揮した元ソニー副会長の石塚茂樹さんの仕事に対する考え方や具体的なやり方、さらに会社員として一つの理想と思える生き様がすさまじく魅力的でした。

 そのため、客観的に戦略として分析するより、石塚さんが「何を考え」「何を後悔し」「どうデジカメ事業を進めてきたのか」という点を生の言葉でそのまま書いたほうが面白くなると考え、ソニーの「デジカメ戦略」ではなく、石塚さんの「デジカメ戦記」としました。

──本書では、2023年3月にソニーグループ副会長を退任された石塚茂樹さんが、ソニーのデジカメ開発の歴史と、歴代のソニーのデジカメ製品を語っています。

山中:石塚さんは1997年以来、一貫してソニーのデジタルカメラの開発に関わってこられた方です。途中2回ほど現場を離れたこともありますが、「デジカメ部門の立ち上げ」「サイバーショットが売れた時期」「デジカメ市場がスマホカメラに負けていく時期」、そこから「デジカメ事業が復活していく時期」をすべて経験されています。

 ソニーは現在「フルサイズミラーレス」と呼ばれるレンズ交換式のカメラの分野で世界一のシェアを持っています。その位置まで、ソニーを持って行ったのは石塚さんの功績と言えます。

──デジカメ市場のこの30年の変化について教えてください。