担任が病休で不在になった学級が崩壊していくまで
氏岡:病休や産休育休中の先生の代わりが見つからない。正規の先生が代わりを務める。ドミノ倒しのように過労で病休をとる先生が続出する。しかし、学校が教員不足に陥っているという事実を、子どもたちは知る由もありません。
何の説明もないままに、ある日突然、先生がいなくなる。そうなって初めて、子どもたちは疑問を感じるのです。それでも、子どもたちには声を上げる場がない。声を上げるタイミングもわからない。
そんな状態では、教員不足の問題が子どもの問題であるということに誰も気づけません。そこが一番深刻なのではないかと思っています。
──書籍内では、実際に「先生が足りない」状態を体験した子どもの話が紹介されていました。
氏岡:ここでは、東北地方の中学2年生の女の子の実体験をお話したいと思います。
彼女は、小学校5年生のときに担任不在を経験しました。
2学期の始業式の日に、女性の担任の先生が病休を取得していることがわかりました。休む期間が長くなりそうだ、ということは伝えられました。彼女もクラスメイトも、次の担任の先生がすぐに着任すると思ったそうです。
ところが、最初の1週間は教頭先生による授業。その後は音楽の先生によって国語や算数のプリントが配布され、ひたすら自習。隣の教室から響いてくる先生と生徒の楽しそうな声を聴きながら、黙々とプリントを解くだけの日々が続きます。
次第に、クラスの雰囲気が沈んでいき、いじめや喧嘩が増えていったそうです。
10月初旬、ようやく新しい担任の先生(常勤教員)が着任しました。70歳を超えたおじいちゃん先生です。彼は、ノートの取り方や椅子の座り方、机の上の文房具の配置を厳しく指導します。ルールを書いた紙が掲示板にべたべたと貼られていく。掲示板の紙が増えるたびに、子どもたちのストレスも溜まっていきます。
そしてある日、ついに子どもたちは担任の言うことを聞かなくなりました。いわゆる、学級崩壊です。着任からわずか1カ月、おじいちゃん先生は学校に来なくなりました。
当事者であった少女は、学級崩壊の原因についてこんな分析をしています。
担任の先生が1カ月も不在だった。ようやく来た先生はルールで子どもを縛ることしかしない先生だった。自分のクラスだけ、見捨てられている。そんな不安が爆発した結果が、学級崩壊だったのではないか。
そして彼女は言います。「先生を雇っておくのは、大人の責任じゃないですか。それをしないで、子どもに辛い思いをさせるのはおかしい」
彼女のこの言葉は、的を射ています。大人の責任。本当にその通りだと思いました。