「最低賃金1500円」の実現で何が起こるのか?「最低賃金1500円」の実現でどんな変化が起こるのか?(写真:Nobuyuki_Yoshikawa/イメージマート)

(川上 敬太郎:ワークスタイル研究家)

 衆議院を解散する前、石破茂首相は所信表明演説の中で「最低賃金を着実に引き上げ、2020年代に全国平均1500円という高い目標に向かってたゆまぬ努力を続けます」と述べました。

 最低賃金1500円は岸田文雄前首相も目標に掲げていた数字ではありますが、達成時期は2030年代半ばとされていました。5年以上も前倒しすることになります。最低賃金には強制力があるため、金額が定められたら会社は必ず従わなければなりません。

 しかし、強制力があるのはあくまで最低ラインの賃金水準だけです。実際はそれ以上の賃金で働いている人が多いため、最低賃金が上がっても「自分には関係ない」と感じる人は少なくありません。ところが、金額が1500円となってくると状況は変わってきます。

 最低賃金の平均は2023年に初めて1000円を超えたばかりですが、1500円はそれより500円も上回る金額です。影響を受ける範囲は段違いに広がることになります。“劇薬”とも言うべき最低賃金1500円計画により、一体どのような変化が起きることになるのでしょうか。

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政府が最低賃金の引き上げを掲げる大きな狙いとは

 最低賃金とは、最低賃金法によって定められる賃金の最低限度額です。大まかな流れとしては、まず中央最低賃金審議会にて引き上げる額の目安が示され、各都道府県の地方最低賃金審議会で地域の実情を踏まえて検討した後、都道府県労働局長によって決定されます。

厚労省で開かれた中央最低賃金審議会厚労省で開かれた中央最低賃金審議会(2024年7月25日、写真:共同通信社)

 一度最低賃金が定められると会社側は守らなければ違法となり、違反すれば50万円以下の罰金なども定められています。また、最低賃金は正社員であってもアルバイトやパートタイマーであっても、雇用されて働く人すべてが対象です。時給換算するので、月給制の正社員であったとしても、1カ月の平均所定労働時間から算出した時間額が最低賃金を下回っていた場合には違法となります。

 最低賃金が引き上げられることで直接影響を受けるのは、最低賃金で働いていた人たちだけです。しかしながら、それ以上の賃金を受け取っている人であったとしても金額が近いほど影響を受けやすくなります。

 例えば、働いている地域の最低賃金が950円から1000円に引き上げられた場合。950円で働いていた人は時給が1000円に上がるので、それまで最低賃金より50円高かった時給1000円の人と金額が並びます。

 しかし、能力などをもとに時給50円の差を設けていたのであれば、1000円だった人の時給は1050円程度に引き上げないと能力差がなくなったとみなされたことになり、不満を感じてしまうでしょう。

 同様に、これまで1050円だった人にも時給1100円にする必要が生じ、1100円だった人は1150円にする必要が生じる……という具合に連鎖する形で賃金のベースが押し上げられていきます。

 政府が最低賃金引き上げを掲げる大きな狙いの一つは、そこにあります。また、物価高が続く中、最低賃金ギリギリの収入で生活している人の家計は大きく圧迫されています。最低賃金を引き上げれば、最も低い収入層の人たちの家計を直接支援できます。

 直近2024年の最低賃金は1055円ですから、これが1500円まで引き上げられると時給アップ額は445円です。仮に1日4時間で月15日働いている場合、「445円×4時間×15日=2万6700円」も月収が増えることになります。年換算すると、32万400円。もちろん、最低賃金が1500円になったころの物価水準がどうかにもよりますが、家計にとって大きなプラスになることは間違いありません。

右肩上がりの最低賃金(全国平均)と急上昇する上げ幅の推移右肩上がりの最低賃金(全国平均)と急上昇する上げ幅の推移(グラフ:共同通信社)
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