人件費をコストと捉えている会社の「末路」

 ここまで見てきたことを踏まえると、最低賃金1500円という劇薬が投与されることで起きそうないくつかのシナリオが見えてきます。もし、ポジティブな影響が望ましい形でつながっていけば、描かれるのは楽観シナリオです。その場合のポイントを大きく3点整理してみたいと思います。

 楽観シナリオのポイントその1は、「雇用が増える」ことです。Indeed Japanの調査によると、求人検索される時給の加重平均値は2024年4月時点で1507円。政府が目標に掲げる最低賃金1500円とほぼ同額です。

 就職活動している人たちが希望する時給の平均値と最低賃金とが近い水準になるということは、世の中の求人の多くが、求職者が希望する水準以上の賃金条件で埋め尽くされる状態になることを意味します。そうなれば働くことに積極的な人はもちろんのこと、これまで働くことに消極的だった人の中にも、前向きに動き出すケースが見られるようになるかもしれません。

 また、最低賃金が強制的に引き上げられると、いや応なしに会社の人件費は上昇することになります。人件費をコストと捉えている会社は、人員を減らしそうです。しかしながら、人件費を投資と見なし、人員を増やした方が新たな売上利益を獲得できると見込める会社であれば、むしろ増員した方が、人件費の上昇で圧迫される利益をリカバリーできます。

 前者のような会社が減員する人数の合計より、後者のような会社が増員する人数の合計が上回れば、社会の雇用総数は増えることになります。また、前者の会社が一旦減員して業務体制を整え、再び事業を拡大したり新しい事業を立ち上げたりと攻勢に転じた場合も、結果として雇用が増えていくと期待できます。