女性活躍推進の政府プロジェクトチーム会合で発言する矢田稚子首相補佐官(右端)=9月2日午後、首相官邸(写真:共同通信社)女性活躍推進の政府プロジェクトチーム会合で発言する矢田稚子首相補佐官(右端)=9月2日午後、首相官邸(写真:共同通信社)
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(西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者)

賃金水準が高いと男女の賃金格差が大きい?

 政府が初めて都道府県別の男女賃金格差を公開したという。

ワーストは栃木 都道府県別の男女賃金格差を初公表 政府:朝日新聞デジタル

 女性の賃金が男性の賃金を上回っている都道府県はない。ただのひとつもないのである。

 普通に考えればそれだけでもおかしなことだが、男性の賃金を100としたときに女性のそれは8割未満程度にとどまることが指摘されている。

 問題に詳しい向きには「男女で非正規雇用比率が異なるためではないか」という疑問が生じるかもしれないが、正社員に限定しても2ポイント程度しか改善しない。正社員として働く場合にも大きな賃金格差が生じている。

 あまりに不公平で、不公正だ。 

 OECD38カ国の男女の賃金格差平均が9割程度であることを踏まえれば、明らかに日本における男女間の賃金格差は顕著だ。

 冒頭のランキングに戻れば、都道府県別にみると高知、岩手、長崎、秋田、奈良が「格差の小さな都道府県」の上位5県で8割前後、逆に「格差の大きな都道府県」として栃木、茨城、長野、東京、愛知が7割に迫る。

 男女雇用機会均等法の成立が1972年のことですでに50年近い歳月が経つがいまだにその理想の実現には程遠いのが現状である。厚労省の調べによれば、1989年、つまり平成元年の男女賃金格差は6割程度、2000年に7割未満程度であるから改善の足取りは大変に重たくなっている。

 若い読者にとっては現代の就労環境に男女の格差など存在するのかと思えてしまうかもしれないが、これが現実だ。

 しかも厳しいのは「格差が小さな都道府県」が手放しで好ましいとも言い切れないかもしれない点である。

 例えば厚労省の調べによれば、令和5年度の最低賃金の全国加重平均は1004円。

◎厚生労働省「令和6年度地域別最低賃金改定状況

 しかし先程の「格差の小さな都道府県」上位の高知、岩手、長崎、秋田、奈良の最低賃金はそれぞれ897円、893円、898円、897円、936円と全国平均を大きく下回る。

「格差の大きな都道府県」上位の栃木、茨城、長野、東京、愛知は逆だ。それぞれの最低賃金は954円、953円、948円、1113円、1027円と全国平均を大きく上回る。

 他にも大阪、千葉、神奈川といったその他の最低賃金が高い主に都市部の都道府県も軒並み「格差が大きな都道府県」に位置づけられている。

 精査が必要だが、もしも賃金水準の高さと格差の大きさがトレードオフ関係にあるとすればやりきれない。