労働時間や管理職比率、勤続年数に起因する格差

 男女の賃金格差にはどのような要因が効いているのだろうか。

 やはり厚労省の調べによれば、「役職の違い(管理職比率)」「勤続年数」「労働時間」だという。その他の変数「学歴」「年齢」「企業規模」等では顕著な差が生じていないようだ。

 念の為に付言すれば、ここまでの記述は待遇格差の観点によるものなので非正規雇用比率の男女差は問題視されていないが、男女の就労環境の差に着目するのであれば、よく知られる非正規雇用比率の男女差も確認されるべきだ。非正規雇用比率は女性のほうが顕著に高く2022年において女性48%、男性17%である。介護や育児、家事の多くを女性が多く担っていることが影響していると考えられている。

◎厚労省(2022)「女性活躍推進法に基づく男女の賃金の差異の情報公表について

 日本における賃金体系の基本は時間給であり、時間単価と労働時間が大きな影響を持っている。しばしば誤解されるが、いわゆる裁量労働制もみなしの労働時間が設定されていて、実際の労働時間にかかわらず、所定の時間働いたとみなすのである。

 みなしの残業代なども含まれることが多いが、あまりに残業時間が現実と乖離する場合には改定の必要が生じるし、しばしば乱暴な運用がされていることも指摘されるが、本来は法定休日に勤務させるような場合には割増賃金の支払いが必要になってくるのである。そのような意味においてやはり変則的だが労働時間の賃金への影響は大きい。

 そのことを踏まえると、女性は男性と比べて労働時間が十分に取れていないか、男性が過剰に長時間労働しているといえるかもしれない。

 実際、厚労省の調べによれば、一般労働者(パートタイム労働者以外の労働者)の年間の総実労働時間は平成の時代を通じて近年に至るまでほぼ一貫して2000時間超で推移してきたが、コロナ禍を経て一時期若干短くなり、1925時間まで減少したが、どうも社会的に事実上コロナ禍が終わったと見なされていることを受けて再び上昇しつつあるようにも見える。

 男女間の労働時間の差はどうか。平成の時代から一貫して男性が女性を相当顕著に上回っている。労働時間が長いから、換言すれば長時間労働ができる/許される環境があるから賃金が高いということだ。

◎厚生労働省(2024)「人口構造、労働時間等について

「管理職比率」はどうか。管理職には管理職手当がつくこともあり、一般的に賃金水準が高くなることが知られている。

 この点、内閣府が一定の規模の企業(常用雇用者100人以上を雇用する企業)を中心に調べたところ、2022年の就業者比率において女性はおよそ45%と諸外国と大きな差はないものの、管理的職業従事者は全体で12.9%にとどまり、ベンチマークとするフィリピン53.4%、スウェーデン43%、米国41%などを大きく下回り韓国16.3%を下回り最低水準になっている。

 より細かくみていけば、上場企業の女性役員は9.1%、部長級の女性比率が8.2%、課長級で13.9%、係長級で24.1%と女性比率が極めて低い水準であることがわかる。
 
◎内閣府(2023)「令和5年版 男女共同参画白書

「勤続年数」に関しても、一般労働者の平均勤続年数の男女差も大きい。男性が13.8年であるのに対して女性が9.9年だという。いわゆる日本型企業において、勤続年数は俸給表に大きな影響を持つことが多く、勤続年数が長いほうが賃金水準が高くなりがちであることが推論できる。子育て適齢期の女性の賃金水準が低下する、いわゆる「M字カーブ」も勤続年数や先の管理職比率などが影響していると考えられる。

◎厚労省(2024)「女性活躍推進に係る取組について