(西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者)
総裁選を盛り上げたい、自民党の試行錯誤
安倍元総理を大きく目立たせ、小泉純一郎元総理や田中角栄、橋本龍太郎など歴代有名総理であり自民党総裁であり、現在の派閥に連なる面々である。モノクロを基調とし、赤文字でタイトルを記し往年のプロレス興行か、格闘技イベントの広報物を彷彿とさせる威勢の良さだ。意匠だけとってみればなかなか洒落ている。
※参考:時代は誰を求めるか?自民党総裁選2024「THE MATCH」について | 記者会見 | ニュース | 自由民主党
自民党という組織にとって、自民党総裁選が盛り上がり、目立ち、メディアが取り上げ、国民が注目することそれ自体が最大の利益にほかならない。そのため局面ごとに、多くのコストをかけて総裁選を盛り上げる方法が試行錯誤されている。
コロナの影響が強く残っていた2021年総裁選では、オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッドの方法が模索された。今でもYouTubeを通じて視聴することができるが、事前に広く国民から参加者を募り、Zoomで接続し、その人たちの疑問に、総裁候補者たちが回答していき、その模様それ自体をYouTubeで配信するという試みだった。
映像の切り替え(スイッチング)もうまく、よく視聴すれば国民の疑問に候補者たちが回答していくという形式が中心で、本当は政策態度などを比較する機会になるはずの候補者間の議論はかえって不自然なほどに排除されている。
候補者たちにはそれぞれ熱心なファンがいる。候補者間の議論や過剰な対立が生じると自民党全体での支持が減りかねないためか、そのような構図にならない「配慮」が認められるが、却って広告代理店的演出やプロの「存在」とかけられている大きなコストを意識させる。
総裁選の日程も当初予定より後ろ倒しされた。そのことで立憲民主党の代表選よりもあとに結果がわかることになる。言い換えれば盛り上がりを独占しながら、後ろに引っ張ることができる。
もともと立憲民主党の野田元総理などが立憲民主党の代表選を自民党総裁選にぶつけることを画策したわけだがそれを換骨奪胎したかのようで、このあたり自民党は実に巧妙なのである。
実際、枝野幸男氏が立候補を表明した立憲民主党の代表選は目新しさも乏しくすっかり霞んでしまっている。「自民党vs野党」ではなく「自民党候補者vs自民党候補者」の構図を強調することで、どちらに転んでも自民党全体としては好ましい結果となるからだ。