あの「悪夢」を回避する自民党の生存本能

 安倍元総理は民主党政権の3年3カ月を「悪夢の民主党政権」と呼んだが、関係者の手記などを総合すると、党本部からメディア関係者の姿が消え、陳情の人の数も減った野党転落の経験は自民党にとってまさしく悪夢だったという。

 内閣支持率、政党支持率が近年ないほどに低迷しながら、選挙の季節が近づいているこの局面において、死にものぐるいで野党転落につながるリスクを除去することが自民党という組織の生存本能として染みついているのだ。

 岸田総理の総裁選不出馬宣言も結局のところ、それ以上でも、それ以下でもない「自民党の論理」の産物だ。

 総裁選の盛り上がりとその演出こそが「刷新感」につながると自民党においては強く信じられている。もちろんその背景には、昭和、平成の自民党の歴史において、政局が行き詰まったときに、選挙の顔となる総裁を変え、「刷新感」を醸し出すことで幾度も難局を乗り切ってきた事実がある。

 それこそ与党と野党が交代するのではなく、与党内主流派から非主流派に総裁が変わる「疑似政権交代」の歴史でもある。歴史が眼前の現実政治に与える影響はつくづく軽視できない。

あまりに「優等生」すぎた小林鷹之氏

 今週19日、「自民党の若手中堅のホープ」と目される小林鷹之氏が推薦人20人を確保し、総裁候補に名乗りでた。若手中堅のホープは刷新感ではなく、どのように自民党を刷新するのだろうか。知りたいのはそこだ。

 記者会見では「多くの信頼する同志とともに、『自民党が生まれ変わる』ことを証明したい。そのため『脱・派閥選挙』をこの総裁選で徹底する」ことを強調した。

 しかし国民が本当に知りたいのは「それをどのように実現するのか?」ということのはずだ。これではあまりに「優等生」だ。むろん自民党的な意味において。

 岸田政権の基本政策を継承するという。

 先週、小欄でも取り上げたが、筆者の見立てでは、岸田総理総裁選不出馬の弁と異なり、岸田政権、自民党は政治とカネの問題の解決において極めて怠慢だ。

岸田首相、捨て身の“禊”アピールを国民はどう受け止める?自ら塞ぎ損ねた「政治とカネ」疑惑、旧態依然の曖昧戦略 【西田亮介の週刊時評】「選挙の顔」を変えたい、まるで昭和な自民党

 筆者が不十分だと見なしたのは、以下の4点であった。

 まずいつまで経っても解散したのかしていないのか判然としない派閥解散。

 次に説明責任の徹底である。政治資金規正法改正は今後の具体化もあわせて、将来の不正の抑止には貢献する可能性があるが、そもそも政治とカネに火をつけた過去の疑惑の解明には特に貢献しない。

 NHKや各社の世論調査では、現在でも政治改革への関心が非常に高いことがわかる。国民が強烈に不満に感じているのは、国民の代表であるはずの自民党の国会議員らが政治倫理審査会に出席しないなどまったくといっていいほど国民に対して説明しようという態度を示していないことであろう。

 岸田総理本人は出席したかもしれないが、他の議員がこれでは自民党という組織においてリーダーシップを発揮できているというほどの説得力は到底感じられまい。

 第3に政治資金規正法の本丸である政治資金の流れを監督する「第三者機関」であった。具体像は見えてこないままで、2026年1月1日の施行に間に合うかという点についても黄色信号といえよう。

 第4に長年の宿題としての旧文通費の使途透明化である。調査研究広報滞在費へと現状追認されたが、使途透明化は実現に至らないままである。

 さて、このとき立候補表明一番乗りとなった小林氏は、政治とカネの問題解決に関して何を述べたのだろうか。