「2020年代に最低賃金1500円」を掲げる石破茂首相「2020年代に最低賃金1500円」を掲げて総選挙に臨む石破茂首相(写真:共同通信社)

(川上 敬太郎:ワークスタイル研究家)

石破首相の賃上げ目標は異次元と言えるハイペース

 前編(「雇用が増え、世帯収入が増え、会社の生産性が上がる…という好循環は本当に望めるのか」参照)で、最低賃金1500円という“劇薬”によるポジティブな影響が、望ましい形でつながることで起こる楽観シナリオについてポイントを3点指摘しました。

 一方、その真逆で悲観シナリオをたどる可能性もあります。その場合のポイントも大きく3点整理したいと思います。

 まず、悲観シナリオのポイントその1は「雇用が減る」ことです。これまでにも、最低賃金はずっと上昇を続けてきました。しかし雇用は減るどころか、いまのところ正社員も非正規社員も増えています。求人倍率は10年以上も1倍を上回った状態が続き、失業率も2%台と低水準です。

 しかしながら、1500円という金額はこれまでの経緯と比較しても規格外だと言えます。2024年の最低賃金が1055円になった時、前年からの上げ幅は過去最大となる51円でした。これを岸田文雄前首相は、2030年代半ばまでに1500円にすることを目指しました。

 仮に1500円到達が2035年だとすると、2025年以降毎年40円強の賃上げペースです。過去と比較するとこれもまた高い水準には違いないものの、2024年で記録した最大値51円は下回っています。

 ところが、石破茂首相は2020年代に1500円達成を目指すと言っています。仮にギリギリまでかかって1500円到達が2029年だとしても、2025年以降毎年89円の賃上げ。異次元と言えるほどハイペースです。

過去最大の上げ幅となっている都道府県別の最低賃金改定状況過去最大の上げ幅となっている都道府県別の最低賃金改定状況(表:共同通信社)
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