賃上げしても共働き世帯の収入が減るカラクリ

「賃金構造基本統計調査(令和5年)」によると、短時間常用労働者の1時間当たり所定内給与額は平均で1412円。最低賃金を1500円に引き上げるということは、いまの平均値にさらに88円上乗せした時給を支払わないと働き手を雇用できないということです。求人情報に記載される時給欄の景色は、一変してしまうでしょう。

 物価高で苦しんでいるのは一般家庭だけでなく、会社も資材の物価高を受けて利益が出しづらくなっています。

 輸入品を仕入れていれば円安もコストを圧迫しています。さらには賃金相場が高い海外企業との競争にさらされたり、春闘で毎年賃上げ基調が続いたりと人件費も増加傾向で経営を圧迫しています。直近でも、イオンや吉野家、セコムといった大手企業でさえ、人件費圧迫が利益を減らしていると報じられたばかりです。

 これらの状況に鑑みると、異次元の最低賃金上昇が加われば雇用を減らさざるを得ない会社が増えることは十分考えられます。人を雇いたくても、人件費を払えなくなって倒産する会社も増えるかもしれません。

 雇用され続ける人は、賃金上昇が見込まれるので時給相場は上がるでしょう。しかし、人を雇用するには最低でも1500円の時給を支払わなければならないだけに、特に財務体力の弱い中小・零細企業、個人経営のお店などでは雇用すること自体の難易度が上昇すると予測されます。

 また、倒産が増加傾向にあるとされる就労継続支援A型事業所をはじめ、障害がある人たちを支援する福祉施設などへの影響も心配です。

 ポイントその2は、「世帯収入が減る」ことです。今は共働き世帯が専業主婦世帯のおよそ3倍になっています。それだけ夫婦が協力して家計収入を支えている家庭が多いということですが、雇用が減れば当然ながらその分、世帯の収入が減ることになります。

 物価高にあえぐ中、パートで働きに出たものの、最低賃金が1500円になったことで職場が人員を減らしたり廃業して仕事を続けられなくなってしまえば、これまで得られた収入が失われて家計はさらに苦しい状況に追い込まれてしまいます。

厚労省前で最低賃金の引き上げなどを訴える人たち厚労省前で最低賃金の引き上げなどを訴える人たち(2024年7月、写真:共同通信社)